Reading the leading shoes

ジョン ロブのシティⅡ


Sep 3rd, 2014

text_jyunki yamada
photo_kazumasa takeuchi

英国靴の象徴キャップトゥオックスの正統を継ぎつつ、
エレンガンスを極めた至高のシンプリシティ

今回の”お題”は靴の基本パターンのひとつであり、メンズドレスシューズの代表的デザインのキャップトゥオックスフォード(以下、キャップトゥオックス)です。

スーツなどと同様、メンズドレスシューズの基本デザインの多くは19世紀から20世紀前半の英国で誕生しました。トゥキャップをもつレースアップ式の短靴はストレートチップと呼ばれていますが、これも19世紀半ば、同国で基本形が確立されています。また、羽根革(シューレース用の小穴がうがたれた革)がアッパーの内側で縫合されたデザインの靴はオックスフォードシューズと総称されます。したがってキャップトゥオックスは「キャップトゥをもつシューレース式の短靴」ということになりますが、そのうえでメダリオン(穿孔からなる記章状飾り)やパーフォレーション(穿孔からなる帯状飾り)、ピンキング(ギザ飾り)といったブローギングが全く施されていないタイプのみ、伝統的にこの名称で呼ばれるのです。

キャップトゥオックスの黒は、英国靴を象徴するデザインとされています。なにしろ20世紀初め頃、すでに本国で昼の正礼装の靴として認知されていたという格式ある靴なのです。現在、日本では「冠婚葬祭では黒靴」との認識が定着しているものの、スリッポンやUチップを履いている人が少なくありません。しかし、ドレスコードではキャップトゥオックス(あるいはプレーントゥオックス)でなくてはなりません。

もちろん、キャップトゥオックスの黒はグレーやネイビーのスーツとも相性抜群。ビジネスでのしかるべきシーンでも違和感がありませんから、ことにビジネスマンにとっては必須のフットウェアといえるでしょう。

ジョン ロブの「シティⅡ」は、そんなキャップトゥオックスの代表的存在です。1990年代半ばにリリースされた初代「シティ」と入れ替わるように、2007年に登場。初代にはややボリューム感ある木型「8695」番が使われましたが、「Ⅱ」では「7000」番に変更されています。美しくエレガントなシルエットを見せるジョン ロブの木型の中でもとりわけ人気の高い「7000」番は、スタイリッシュでノーブルな印象。英国靴の伝統的なシルエットであるオーバルトゥ(微かに膨らみを帯びたトゥの一種)も組み合わさり、モダンと伝統が巧みに調和した大変美しい名木型です。

“紳士靴の王者”と賛が贈られるジョン ロブ。その製品には、ある種の凄みが感じられますが、それは「シティⅡ」も例外ではありません。エルメス・グループ傘下とあって、アッパーに採用されているカーフは繊維がきめ細かく、かつ整っており、誠に上質の極み。アッパーに施された一切の破綻も許さぬ縫製や、土踏まずが細く絞り上げられたソールなどからうかがえる完全主義的なプロダクションが、流麗シルエットの木型や最上の素材と一体となることで、この靴はそんなオーラを身にまとうのでしょう。

前述したように、キャップトゥオックスの黒はデイリービジネスからフォーマルまでさまざまなシーンで履くことのできる、ベーシックシューズの中のベーシックシューズです。聞けばこの「シティⅡ」、ジョン ロブのエントリーモデルとしても大変人気が高いとのことですが、これすなわち、高級靴の最初の1足をキャップトゥオックスからと考える洒落者が少なくないことの表れなのでしょう。

(問い合わせ先)
ジョン ロブ ジャパン
電話:03-6267-6010
価格:160,000円+税

Navigator
山田 純貴

55歳/東京出身/雑誌・書籍のフリー編集者・ライター。 中学時代に靴の魅力に開眼。1993年以降、靴道の伝道者として雑誌等に執筆中。著書に『靴を読む (本格靴をめぐる36のトリビア)』(世界文化社)がある。

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