ICON OF TRAD

Vol.27 ダイアナ妃とキャサリン妃。プリンセスファッションにおける伝統の進化。


Feb 4th, 2015

text_shuhei tohyama
illust_yoshifumi takeda
edit_rhino inc.

いつの時代においても、世の女性たちの興味関心を常に集めるのが英国王妃の着こなしだ。今回はダイアナ妃とキャサリン妃のプリンセスファッションから女性の伝統的なスタイルを考察してみよう。

ロイヤルウエディングの象徴

結婚は青春の終焉である。

男は心の中でこう思っている。こんなふうに書くと多くの女性は反発を感じるだろうが、よく読んで欲しい。男は、結婚を青春のけじめといっているわけで、決して人生の終焉などとは感じていない。結婚すれば、青春時代のように自由気ままに遊ぶことができない。だから家庭を持つ覚悟を、ここに示しているわけだ。

いっぽう結婚を人生のゴールインと考える女性は少なくない。優れた伴侶を獲得してしまえば、その後の半生の幸せは、多少の苦労はあろうとも、約束されたようなもの。その、晴れの舞台の象徴が結婚式である。

だから女性は少女の頃から結婚式に漠然と憧れを抱いている。ディズニー映画の『シンデレラ』や『眠れる森の美女』などを観て、いつか私もあのお姫さまのような結婚式を挙げたい、と夢見た女性は多いはず。

そのロイヤルウエディング・ドリームの象徴が、ダイアナ妃とキャサリン妃である。今回は新旧ふたりのプリンセスファッションを比較して、時代とともに進化する女性の伝統スタイルは何かを考えることにしたい。

典型的お嬢様ルックのダイアナ妃

非業の死を遂げた後も人気が衰えないダイアナ妃。しかし正直いってダイアナのファッションは、婚約時代からチャールズ皇太子の不倫が発覚する80年代前半まで、あか抜けない印象のほうが強かったように思う。

厚手のジャケットに付いた大きすぎるカラー、立ち襟のブラウスを埋めつくすフリル、ひらひらとした小花柄のワンピースや明るい水玉のローウエスト・ワンピース、そして大袈裟な帽子という着こなしは、当時のデザイナーズファッションと比べて、なんと古臭く、野暮ったく映ったことか。

しかしその後30年すぎてようやく筆者は、あれこそが英国貴族のお嬢様たちが好む典型的なコンサバスタイルであることに気づいたのである。

社交シーズンといわれる6月、ロンドンの市内では、ウインブルドン・テニスやロイヤルアスコット競馬へ出向く着飾った若い女性たちの姿を見ることができる。彼女たちの、フリフリひらひらした明るい色のワンピーススタイルは、まさしく若きダイアナ妃のそれとほぼ同じであった。

大袈裟なオーダーメイドの帽子にしても、ロイヤルアスコットにはドレスコードがあることを知れば納得できる。男性はグレーか黒のモーニングコートに帽子着用。女性は服の色柄形などの決まりはないけれど、帽子を着用していないと場内に入れない。

お洒落に敏感な日本人の目から観ると、時代遅れで田舎くさい装いに思えても、長い年月のなかで培われた上流社会の伝統的着こなしというものは、リバティ百貨店の壁紙の柄のようにおいそれと廃れるものではない。

話は少し脱線するが、離婚後のダイアナ妃のファッションは激変した。簡単にいえば、エリザベス女王好みの着こなしから、男性好みのセックスアピールルックへ大転換。ベルサーチのブラックミニドレスや、著名なオートクチュールデザイナーによる背中の大きくあいたローブ・デコルテなど、大胆な攻めのファッションは、長身な彼女を見違えるように引き立てたものだ

自分らしさを失わないキャサリン妃

親戚筋にあのウィンストン・チャーチル首相がいるという名門スペンサー伯爵の令嬢であったダイアナ妃に比べ、キャサリン妃(ご結婚前の名はキャサリン・エリザベス・ミドルトン)は庶民の出といわれる。しかし調べてみると、ご両親は子供用パーティウエアの事業で大成功を収めた富裕層。ミドルトン家の祖先には政治家もいる優れた家系である。

英国のクラス社会というのは、我々日本人には今ひとつピンとこないものだが、それを知る格好のテキストとして、ジェフリー・アーチャーの大河小説『時のみぞ知る』新潮文庫のシリーズをお勧めしたい。これを読めば、全寮制の私学校のことから、政治、経済、生活に至るまで、英国エリート階級の思考法が抜群に面白い物語とともに理解できるはずである。

いずれにせよ、ウィリアム王子とキャサリン妃の婚約、結婚、新生活を見る限り、英国の王室はかなりひらかれたものになってきたことは間違いない。

キャサリンスタイルの重要で優れたポイントは、王室のTPOを順守しながらも、そこに自分らしく現代的なセンスを加えて、万人を納得させる品位と親しみやすさを表現している点であろう。

ナチュラルなヘア&メイクで親しみやすさを。気に入ったウエッジヒールの靴やファストファッションブランドの服を、何度も使いまわす合理性で庶民の共感を呼び。ウエストをマークした上品な丈のフレアースカートの付いたワンピースや、かっちりと仕立てられたジャケットにタイトスカート、さらに肌寒い季節にはテーラードのコートドレスなど、自分を良く見せるアイテムを必要最小限に選び抜き、それを目的に応じて完璧に着分けることによって知性をアピールしている。

いつもネイビーのシングルブレストスーツに黒い靴というウィリアム王子の堅実な装いを助けるように、淡いピンクのワンピースなどでさり気なく寄り添い、場を華やかなものに変えてしまう。夫をたてながら、自分らしく自然に振る舞うテクニックは、彼女の明晰さがよく分かる装いといえよう。

唯一、キャサリン妃がダイアナ妃に及ばない点があるとすれば、それはカントリーにおける着こなしかもしれない。ダイアナ妃は、オイルドクロスのバブァーコートや、コーデュロイのパンツにブリティッシュグリーンのゴム長靴を合わせる着こなしを自然と身につけていた。それは幼い頃から、広大な敷地をもつ田園生活に馴染んだお嬢様だからこそ醸し出せるテイストなのである。

継承されるロイヤル・ジュエリー

世界一の宝石の所有者といえばエリザベス女王である。即位60周年のダイアモンド・ジュビリー式典のときに披露した、あの驚異的な大きさのダイアモンドも凄かったが、英国王室には代々受け継がれるファミリージュエリーというものが存在する。

たとえばメアリー女王のアールデコ調のエメラルドとダイアのチョーカーは、エリザベス女王が受け継がれたもののひとつ。エリザベス女王はチョーカーの斬新すぎるデザインが自分にはフィットしないとお考えになり長らく保管していたのだが、チャールズ皇太子とダイアナ妃の御成婚の記念にこれを贈られた。ダイアナ妃は、このレトロなチョーカーを見事にヘアバンド風にアレンジして喝采を浴びたこともあった。

いっぽうウィリアム王子はご婚約のときに、ダイアナ妃の形見であったダイアとブルーサファイアの指輪をキャサリン妃に贈っている。キャサリン妃が身につけるアクセサリーは、今もイヤリングとこの婚約指輪だけ、というのも好感度が高い。

大袈裟に飾り立てることなく、キャサリン妃だからこそ身につけることのできるファミリージュエリーによるシンプルな装い。まさにそれこそが、現代のプリンセススタイルの真骨頂なのであろう。

Navigator
遠山 周平

服飾評論家。1951年東京生まれ。日本大学理工学部建築学科出身。取材を第一に、自らの体感を優先した『買って、試して、書く』を信条にする。豊富な知識と経験をもとにした、流行に迎合しないタイムレスなスタイル提案は多くの支持を獲得している。天皇陛下のテーラー、服部晋が主催する私塾キンテーラーリングアカデミーで4年間服づくりの修行を積んだ。著書に『背広のプライド』(亀鑑書房)『洒脱自在』(中央公論新社)などがある。

Vol.28 カジュアルアップかドレスアップ。 2種類のニットタイの使い分けを覚えておこう。

Vol.26 2015年の干支にちなんで 羊とウールの歴史を研究してみよう


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