ICON OF TRAD

Vol.17 アイウェアのベストドレッサーはジェームス・ディーンとスティーブ・マックィーンである。


Apr 9th, 2014

Text_Shuhei Tohyama
Illustration_Yoshihumi Takeda

視力を矯正する本来の用途はもちろん、その人物のキャラクター付けにも一役買ってくれるアイウエア。今回は時代によって変遷するアイウエアの流行と役割を、「リンドバーグ」のメガネを愛用する遠山さんが綴ります。

メガネはマイナスのイメージ?

 メガネ男子が現代の流行語として認められているように、アイウエアは知的で親しみやすいイメージを醸し出すためのアクセサリーとして持てはやされている。

 人の第一印象は、服の着こなしとか肉体の美しさなどに影響されるが、顔から受けるイメージが強い気がする。メガネは顔に一番近いアクセサリーだから、自分の印象を素早く手軽に変えることも可能だ。メガネをかけていなければ、どこにでもいる普通の二枚目だけれど、メガネをかけた途端に役柄に深みが生まれ、人気が沸騰した俳優がいるというのもうなずける話。

 しかし1940~60年代は、メガネをかけるということ自体がマイナスのイメージであった。たとえば当時の映画で、メガネをかけている男は、スポーツが苦手で、弱々しく、どこか滑稽な役柄が多かった。

 いっぽう女性は、グラマーでたいへんな美人であるけれど、メガネをかけているためにおかしな行動をしてしまう。そんな天然な役柄をうまく演じていたのはマリリン・モンロー(映画『百万長者と結婚する方法』1953年)だった。

 当時は視力が多少悪くても無理してメガネをかけないという人が多かった。アーネスト・ヘミングウェイやジョン・レノンは、視力が悪いにもかかわらず、若い頃は人前でメガネをかけることを嫌っていたという。しかし、文学や音楽で実力を発揮すると、彼らは自信をもってメガネをかけ始めた。作家はメタルの丸メガネ、音楽家は日本製のセルフレームを愛用し、アイウエアのウェルドレッサーとして認められている。

 どうやらメガネは、似合う型をひとつ見つけたら、それを生涯使い続けたほうがスタイリッシュになりやすいらしい。

元祖メガネ男子の登場

 メガネがまだマイナスイメージだった時代に、孤高の元祖メガネ男子が登場する。その人こそ、1955年にエリア・カザンが監督した『エデンの東』で主人公のキャルを演じたジェームス・ディーンである。

 誰でも、薬では決して直せない病気に一度だけかかることがある。思春期の感情はピュアであるがゆえに激烈で、しかもそれを発散する術を知らないから内へ籠もる。考えていることが言葉として意味を結べないことによるもどかしさと葛藤。そんな心の痛さを全身で演じたのがジェームス・ディーンだった。

 ジミー(彼の愛称)は『エデンの東』、『理由なき反抗』、『ジャイアンツ』という3本の映画の主役を2年の間にこなし、24歳の若さで死んだ。カーレースへ出場するために愛用のポルシェ550スパイダーRSで公道を走行中に飛び出してきたクルマと衝突、即死だったという。

 映画評論家の淀川長治は「20世紀でもっとも偉大な男優はマーロン・ブランドです。でもジェームス・ディーンが生きていたら、ブランドはジミーの亜流と言われたことでしょう。彼はそれほど輝く個性を持つ役者でした」と語っている。筆者は、ジョニー・デップもジミーにインスパイアーされている、と考える者だ。

 ジェームス・ディーンの格好良さを知る手引書としては、『よみがえるジミー デニス・ストック写真集』(芳賀書店1980年)をお勧めしたい。デニス・ストックはマグナムフォト(キャパやブレッソンが会員だった国際的な写真家グループ)所属のフォトグラファー。まだ無名だったジミーと偶然知り合い、意気投合。俳優が映画で見せたことのないプライベートな素顔を見事に切り取って写真集にしている。

 写真家デニスの前でジェームス・ディーンは、臆する事なくセルフレームのクラシックなメガネをかけ、故郷のインディアナ州フェアマウントで狩りをしたり、ニューヨークのアクターズスタジオで演技やダンスを学んだり、セントラルパークに近い彼のアパートで生活している場面を撮影させている。

 彼のセルフレームメガネは、ジミーの知的でナイーブな面を助長する最高の小道具として機能した。また彼は愛用のメガネの上にクリップオン式のサングラスを装着することがある。そんなときは、ジミーのもうひとつの側面、行動派でスピード狂(トライアンフのバイクも愛用)という魅力を引き出していた。

 先日、渋谷と原宿を結ぶ明治通り沿いに粋なメンズクロージングストアがオープンした。ニューヨーカーマガジンの編集者であり撮影やインタビューもこなす高橋好青年らと見物に行ったところ、ニューヨークから直送だというメガネ類が置かれていた。そこになんとあのジェームス・ディーンがかけていたのとほぼ同型のクリップ オン サングラスを発見したときの驚き&喜び。まさに流行は蘇る、という感を強くした次第である。

サングラスのベストクールガイは誰だ

 メダネと違ってサングラスのアイコンは多い。黒いセルフレームのサングラスならボブ・ディラン。ティアドロップ型のパイロットグラスは、さまざまな俳優が戦争映画などでその勇姿を披露している。しかしサングラスのベストクールガイをひとりだけ挙げるなら、筆者の場合はスティーブ・マックィーンを置いてほかにいない。

 マックィーンの父親は曲芸飛行を商売にして各地を旅する人だったらしい。父は妻子を捨て突然行方をくらましてしまう。そのためマックィーンは情緒不安定な少年となり、少年鑑別所へ入ることになってしまう。だがいっぽうで、父親の血は息子にクルマ、バイク、飛行機などを巧みに操る才能を授けることになったのである。

 スティーブ・マックィーンのスタイルを知るうえで、今も最高の手引書として評判が高いのはウィリアム・クラクストンが撮影した『STEEVE McQUEEN』TASCHEN2004年である。この写真集の表紙には、マックィーンがイタリア製のフォールディング(折り畳み式)サングラスをかけてジャガーXKSSを運転する伝説的な写真が使用されている。

 ビル(クラクストンの愛称)がマックィーンと知り合ったのは、1962年頃に映画『マンハッタン物語』で共演したナタリー・ウッドとのキスシーンを撮る仕事だった。

 クラクストンはマックィーンに負けず劣らずのカーマニア。すぐに家族どうしで付き合いが始まり、マックィーンは最初の妻であるニールからプレゼントされたフェラーリの63年型ベルリネッタ、ビルはポルシェ356で一緒にカリフォルニアコーストハイウエイやマルホランドドライブなどを走行したらしい。またクラクストンの妻はカリスマモデルのペギー・モフィット。彼女のセンスはマックィーンの服選びにも好影響を与えたことが推測される。

メガネ男子の新しい価値観

 価値観が多様化した1960年代後半から70年代以降になると、メガネ男子もより複雑な性格を示す男性像へと変化していく。シルバーのヘアスタイルに透明なセルフレームのメガネを合わせたアンディ・ウォーホル。ユダヤ系ニューヨーカーの映画監督ウディ・アレンは、セルフレームのメガネにナードな魅力を加えてくれた。

 さらに1980~90年代に流行した青春トレンディドラマには、再び誠実で真面目で少しダサイ感じのメガネ男子が脇役として登場してくる。

 最近では、コリン・ファース(映画『シングルマン』2010年)やゲイリー・オールドマン(映画『裏切りのサーカス』2012年)が渋い中年メガネ男子を好演している。

 時代によってさまざまに変化する男性像であるが、筆者には青春時代に感化されたジェームス・ディーンとスティーブ・マックィーンが、いまだにアイウエアの2大ウェルドレッサーであり続けるのだ。


Navigator
遠山 周平

服飾評論家。1951年東京生まれ。日本大学理工学部建築学科出身。取材を第一に、自らの体感を優先した『買って、試して、書く』を信条にする。豊富な知識と経験をもとにした、流行に迎合しないタイムレスなスタイル提案は多くの支持を獲得している。天皇陛下のテーラー、服部晋が主催する私塾キンテーラーリングアカデミーで4年間服づくりの修行を積んだ。著書に『背広のプライド』(亀鑑書房)『洒脱自在』(中央公論新社)などがある。

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