尾崎雄飛の珈琲天国

和モノ珈琲物語


Oct 29th, 2014

text_yuhi ozaki
photo_masahiro arimoto

秋深まっていよいよ冬を感じる頃、和菓子がまた美味しくなってくる。

僕は和菓子が好きだ。
控えめな甘さと繊細な造形、四季折々の旬に合わせた材料と色使いが美しい、世界最高の菓子だと思っている。

和菓子も数多だが、この季節なら、是非とも「栗きんとん」を食べたい。
栗きんとんは、岐阜県は中津川の物が有名だけど、個人的には滋賀県・たねやの「西木木(さいぎぼく)」を推している。
この秋に収穫したばかりの国内産新栗を使用し、新栗の水分だけで練り上げられたフレッシュで濃厚な栗の味わいのよさはもちろんのこと、
ここんちの栗きんとんの一番の特徴は、仕上げに焦げ目をつけ、香ばしさを加えたところ。
さっぱりした味わい、控えめに主張する甘味とともに、焼いた栗のスモーキーで甘い薫りが口中に広がる、オトナな栗きんとんなのだ。

ところがこの栗きんとんという食べ物、栗の水分だけではお世辞にもジューシーなお菓子にはならず、ほおばると口中の水分を殆ど持っていかれてしまう。
えづき、もだえ、窒息してしまう前に水分を、そう、珈琲を用意する必要があるのだ。
えっ?珈琲??和菓子ですょ?という賢明な読者諸兄もいらっしゃる事と思うが、ここは珈琲天国。
騙されたと思って深煎りの珈琲を淹れ、併せ飲んでみて欲しい。
栗の味わい、焦げ目の香ばしさと、しっかり苦くまろやかな深煎り珈琲のマリアージュは、格別な物である。

そう、珈琲に和菓子は、意外と合う。ちゃんと合う。

もうひとつ、僕が和菓子×珈琲でオススメするのは、王道だけど、カステラ。

中でもカステラの元祖、長崎県・福砂屋の「カステラ」は、シンプルなカステラのお手本のような逸品。王道中の王道だ。
きめ細やかでぎっしりした、目がくらむほど鮮やかな黄色のスポンジの胴体と、静かな光をたたえるジューシーなカラメルの天地。
クラシックモダンな包装紙もステキで、贈り物の定番に相応しいここんちのカステラには、実は圧倒的な特徴がある。
底部カラメルの中の「角の落ちた」ザラメ糖の食感だ。

長崎のカステラは大抵、焼き上げる際に投入したザラメ糖が溶けきらず底部に残っている。
スポンジを食べ進んでいくと、突如ドキッとするようなザラメ糖の固い食感に行き当たるのが長崎カステラのドラマ。

この福砂屋のザラメ糖は、固すぎず、柔すぎず、歯に当たった瞬間に崩れ落ちるような食感で、幾多あるカステラ老舗の中でも格別なのだ。
端正な身じまいのしっとり美しい女性が、時おり強がって見せる大胆なしぐさに、甘い誘惑を悟るような、そんな。

そしてまた、このカステラのシンプル且つ香ばしい味が珈琲にとても良く合う。
それも、一見枯れた風情だが清潔にして快活、よく鍛えられた身体の生涯現役プレイボーイのように深く苦い、オールドビーンズの深煎り珈琲がいい。
悠久の時を経て成熟した彼らの一糸乱れぬ美しい協奏に、いつでも僕の舌は溶かされてしまうのだ。

僕は和菓子と珈琲が好きだ。
実は珈琲には餡もよく合うのだけど、その話はまた別の機会に。

今月の一杯【茶亭羽當(さていはとう)の楡(にれ)】

かの「ブルーボトル・コーヒー」のオーナーが影響を受けたという、サードウェーブの源泉であることでも有名な渋谷の喫茶店「羽當」のブレンドコーヒー。
生豆を5年ほど寝かせてから焙煎された、マンデリンベースの所謂「オールドビーンズ」は、深く、苦く、でも優しい味わい。
本文の珈琲もコレ。和菓子全般にフィットする、複雑な味の深煎り珈琲だ。

PROFILE
尾崎 雄飛

2001年よりセレクトショップのバイヤーとして勤務後、2007年に〈フィルメランジ ェ(FilMelange)〉を立ち上げる。2011年に独立し、フリーランスのデザイナーとして様々なブランドのデザイン、ディレクションを手がける。そして2012年1月に自身のブランド〈サンカッケー(SUN/kakke)〉をスタート。現在、様々な商品のブランディングも務めている。

美しい冬の過ごし方

秋と珈琲と音楽と


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