あっという間に、秋になっちゃった。
秋になると、「暑いですなぁ」とか「寒ぅ〜〜」とか言わなくていいので、心に余裕が生まれる(と思う)。
すると、スポーツしたり、読書をしたり、音楽鑑賞なんかをする時間も作りやすくなってくるのだ。
今回は、ステキな秋の余裕な時間に心地良く聴けるオススメの音楽と、共にする美味しい珈琲の飲み方を。
音楽は、できればレコード盤で、ジャズ喫茶のように大音量で聴いて欲しい。
『トーキョーズ・クーレスト・コンボ/トーキョーズ・クーレスト・コンボ・イン・東京(1996年)』
元ピチカート・ファイヴの小西康陽氏のプロデュースによるヴィブラフォンをフィーチャーしたイージー・リスニング・アルバム。
全曲がカバー曲のアルバムで、ピチカート・ファイヴの楽曲はもちろん、オックスの「ダンシング・セブンティーン」、ベートーベン“第九”のボッサ・ノヴァアレンジ「ボッサ・ノヴァ・ナンバー9」など意表をついた曲の他、オリジナル・ラヴ「ヴィーナス」やフリッパーズ・ギターの「グルーヴ・チューブ」などなど、氏のユニークな選曲センスが光る、夏の終わりから秋の始まりにピッタリの清涼感溢れる名盤。
90年代後半といえば、第一次カフェブームの萌芽が生まれ始めた時代。
ポップで穏やかだったあの頃のカフェを象徴する、「KONO」のドリッパーで淹れた深めの珈琲を、ポップなカップですすりながらこのアルバムを聴いて欲しい。
『ビル・エヴァンス/アローン(1968年)』
言わずと知れたジャズ・ピアノの巨匠による初のピアノ・ソロアルバム。
叙情的と評されるそのピアノ・プレイを存分に堪能できる名盤中の名盤だ。
1曲目の「ヒアズ・ザット・レイニー・デイ」からA面を通して、エヴァンス・リリックの静謐で情熱的な世界が展開される。
4曲目の「オン・ア・クリアー・デイ」は僕の大好きな曲のひとつで、特に晴れた秋の日にエヴァンスの軽やかな演奏で聴くのがいい。
ケメックスで薄めの珈琲をいつもよりたくさん淹れて、ファイヤーキングのキンバリー・アンバー・マグで、60年代後半〜70年代の雰囲気を出してみると、このアルバムの世界にもっともっと浸れるだろう。
『菅野邦彦ウイズ・ストリングス/いそしぎ(1976年)』
現在、御歳78歳にしてまだまだ現役ピアニストという氏の、70年代の作。
ラテン・ピアノ曲を多く演奏する彼が、ブラジルへ移住する直前のコンサートを収めたライブ盤である。
「ミュージシャンというよりアーティスト」と評される氏の、丁寧かつ美しいタッチに弾かれて繊細に歌うピアノと、バックに配した柔和なストリングス・セクションとの静かな掛け合いが、小さな波の寄せる秋の海を思わせるB面3曲目「いそしぎ」は必聴。
鎌倉の海を見て、明日は会社を休みたくなるような、そんな。
和製ジャズを聴くなら、珈琲も和製・有田焼のドリッパーとバーナード・リーチが出西窯に残した名作「リーチ・マグ」で迎えたい。
ゆっくりとハンドドリップした中煎りの珈琲を飲みながら、彼方まで旅立った憎いあんちきしょうの事でも考えて欲しい。
音楽を聴きながら飲む珈琲は、そうでない時に飲む珈琲とは少し味が違うように思う。
僕は割に、街の音を聴きながら飲む珈琲も嫌いではないのだけれども、この美しく高い初秋の空を見上げて、心と時間に余裕が生まれたときぐらいは、大音量で鳴る美しい音楽の中、珈琲と物思いに耽るのもいいだろう。
今月の一杯【マリーゴールド・コーヒーのチェドロ・エステート・ブラジル】
米ポートランドのロースターによる、中深煎りのブラジル豆。
ボッサ・ノヴァは秋に聴くのがいいと思っている。ブラジルは常夏で熱帯雨林のイメージだけれど、「サウダージ(思慕)」のニュアンスは、日本では秋に該当すると思う。
安直だけど、上記で紹介したような静かなブラジル音楽にはブラジル豆がオススメだ。中庸といわれる味の中に密かに主張する薫りや酸味、コクを見つけ出そう。街に小さな秋を見つけるように。