尾崎雄飛の珈琲天国

年のはじめの


Jan 28th, 2015

text_yuhi ozaki
photo_masahiro arimoto

新しい年が始まったという。
2015年だという。
20世紀の頃には、遠い遠い未来だと思っていた20XX年になってもう15年も経つのか。
そう考えると、僕もそれなりに年をとったのだなと思う。

もう大人だから、年のはじめには何かしらの決意をしてみるものだ。
朝ランを続けよう、とか、
仕事の中で、新しくてカッコいい取り組みを始めよう、とか。

そうだ、大人は決意を行動に移すものだ。
継続は力なり。
成し得た者だけに見える地平がある。

そして、でも、大人には大人の事情がある。
それをしたくてもできない理由がある。
まじめに、寝る間も惜しんで働くと、なかなか個人的な時間を作ることができないことも…ある!…
で、でも、大人だからそういうのは仕方ないのだ。
うん、決意の通りにならないこともあるさ、そりゃあ。大人だもの。

こんな風にして、年のはじめの決意は有耶無耶になって、いつの間にかまた次のお正月なんてこと誰だってあるはず……!僕だけではないはず。

というわけで、この年はじめ、新しい下着に着替えて、新しいノートに新しい決意を書き込んで、一年中忘れないようにしようと思う。
あ、パンツ一丁で書くのもなんだから、一番シンプルな白のTシャツ、白いシャツ、ブルー・ジーンズで初心に戻って。
そしてもちろん、美味しい珈琲を飲みながら!

珈琲は「初心」ということで、僕が珈琲を初めて自分で淹れたときに使ったカリタのドリッパーで淹れて、静かに新年の抱負をしたためる。
「ベーシックな人間で居よう」
人の世に流行はあれども、ホンモノは不動。ニセモノは流動。
地に足の着いた人になりたいものだ。

珈琲にも基本があって、それから応用編がある。
自分のルーツやベーシックを見つめなおして、シンプルに珈琲を楽しむのがいいなと年始にひっそりと決意して以来、毎朝ペーパードリップで珈琲を淹れている。
従来の奇をてらわない淹れ方で。
お湯を細く優しく注いで30秒蒸らす。
それからちょうど3分かけてゆっくり落とす。
豆も毎日同じものを続けて使って、その日のドリップの精度を味の違いで確かめる。
こういうシンプルで初歩的な作業を続けることで精査し、洗練していくことが、そのものの質を高めるための基本的な作業だ。

僕の仕事は、つよい風に流されていく雲をつかむような流行を取り扱うわけだが、
闇雲に差し入れるようなことはやめて、シンプルにベーシカルな質を高めるような仕事をしよう。
今年はノートに書いて、ちゃんと決意した。

最後になりますが、新しい年も読者の皆様が美味しい珈琲に出会えるよう、お祈りしております。

今年も珈琲天国をよろしくお願いいたします。

今月の一杯【ジョシュア・ツリー・コーヒーカンパニーのメロウ・エチオピアン】

ロサンゼルスから車で2時間。いびつで不思議な形をしたジョシュア・ツリーが群生する砂漠「ジョシュア・ツリー国立公園」をドライブした。
自分探しの旅のつもりだったが、コーヒーロースターを見つけてしまった。
「メロウ」の名のとおり、エチオピア豆特有の酸味の中に、まろやかなコクが同居する、シンプルで豊かな味。
焙煎においても浅いけどよく焼いている、とても上手い個人ロースターであると思う。

PROFILE
尾崎 雄飛

2001年よりセレクトショップのバイヤーとして勤務後、2007年に〈フィルメランジ ェ(FilMelange)〉を立ち上げる。2011年に独立し、フリーランスのデザイナーとして様々なブランドのデザイン、ディレクションを手がける。そして2012年1月に自身のブランド〈サンカッケー(SUN/kakke)〉をスタート。現在、様々な商品のブランディングも務めている。

珈琲について聞いてみた「カフェ・ド・ランブル関口一郎さん」編

パーティーを抜けだそう(で、珈琲を淹れよう)


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