尾崎雄飛の珈琲天国

珈琲道具〜入門編〜


Mar 25th, 2015

text_yuhi ozaki
photo_ari takagi

雪が溶けて、花が咲き、風のにおいが変わる。
4月になれば、新しい生活が始まる季節。
故郷を離れてひとり、新しい土地でくらし始める人たちも多いだろう。
新生活は不安と緊張の連続だから、心を休める時間をつくることが大切だと思う。

心を休める時間。
そのために自分で珈琲を淹れることをオススメする。
ハンドドリップで珈琲を淹れると、集中により神経が研ぎ澄まされ、珈琲の薫りがアロマ効果をもたらすのか、心が落ち着いて気持ちにゆとりが生まれる。

また一方で、自分で珈琲を淹れるのはとても経済的なことでもある。
割と高級な珈琲豆を買ったとしても、喫茶店で飲む珈琲の半額以下でその一杯を飲むことができるだろう。

そんなわけで、一人暮らしの若者にはぜひとも自家製珈琲をオススメしたいのだけど、そう言われても道具がないし何を買えばいいのかもわからないという人の声もよく聞く。
では、今回は新珈琲生活を始めるための珈琲道具をオススメすることにしよう。

まずはドリッパー。
珈琲を抽出するためのろ過器のことだ。
オススメは珈琲サイフォン株式会社というメーカーから売られているオシャレな箱。

その名の通り、珈琲サイフォンのパイオニアの同社だが、1973年にネルドリップの良さを持ったペーパードリッパーとして「コーノ式名門ドリッパー」を発売。「名門」の名を冠した円すい型のドリッパーは、抽出速度が比較的早く、珈琲豆の雑味が出にくく、スッキリした印象の美味しい珈琲を淹れることができる。
この箱の中身は、ドリッパー、ガラス製のサーバー、豆をすくうスプーン、ドリップペーパー数枚のセット。

このひと箱で珈琲を淹れるためのほとんどの物が揃ってしまう珈琲入門的なセットだけど、これだけで美味しいコーヒーを淹れることはできない。

肝心カナメは美味しい珈琲豆だ。
珈琲豆は必ず新鮮なもので、少し値が張っても、評判のいいものを選びたい。
抽出の技術が上がってくると、やや古い豆でも最大限に美味しさを引き出すことができるようになるけれど、技術が伴わないうちは豆に頼った方がいいだろう。
そして、同じくらい大切なのが、抽出直前に珈琲豆を挽くということ。
そこでコーヒーミルもぜひ買っておきたい。
コーヒーミル(グラインダー)は、非常に沢山のメーカーとその種類があり、価格も上を見ればキリがないほど、良いものは高い。
けれども、家庭で使用・使用頻度は低め・見た目重視…など条件を挙げていくと的は絞れるし、また、それほど高い物には辿り着かないはずだ。
オススメはハリオ株式会社から出ているこんな気の利いたタイプ。

HARIO CMH-4C

家庭で使うのに十分な機能と、アメリカ製品っぽい見た目、ボトムのラバーがすべり止めと緩衝材になっていて、非常に使い勝手がいい。
ガラス部分はアメリカのメイソンジャーのような蓋つきで、挽いて余った珈琲豆を密閉保存することができるという気の利きようだけど、珈琲豆は飲む分量を抽出直前に用意するほうが美味しいので、この機能はあまり必要ないかもしれない。

ドリッパーと珈琲豆が揃ったら、ここにお湯を注いでいこう。
そのためにはお湯を注ぐポットが必要だ。
よく、お湯を沸かしたやかんでそのままドリップを始める人がいるけれど、それは良くない。お湯の温度が定まらないし、ほとんどの場合、やかんの口はそんなに細口になっていないはず。
ハンドドリップではお湯の温度管理とお湯を細くチョロチョロと注ぐことが絶対条件となるから、細口のドリップ専用ポットを用意する必要がある。

月兎印 ゲットニュースリムポット

価格と見た目の良さのバランスが最高、株式会社フジイの野田琺瑯製・ニュースリムポットをオススメしたい。
ただし、これは珈琲のハンドドリップのためつくられている物ではないので、精度を上げていくといつか、プロ用のメーカー品であるユキワやタカヒロ、カリタなどの物に辿り着くだろう。

道具が揃ったところで、さて実施。

まずは珈琲豆をドリッパーへ。一人分180ccに対して、8~10gの珈琲豆というのが一般的だ。
それから、珈琲豆と同量ぐらいのお湯を珈琲豆の表面に「置くように」注ぎ、25〜30秒間蒸らしのため、待つ。
蒸れて珈琲豆が膨らんだら新鮮な豆の証拠だ。
さて、ここからが本番。お湯を細く優しく注いでいこう。
中心から外へ、ゆっくりとうずを描くように、外側よりも中心の方が珈琲豆の量が多いので、中心寄りにお湯を多めに注ぐ意識で。
ここでも「置くように」3分ぐらい時間をかけて注ぎ、サーバーの人数分の印のところまで注げたら、ドリッパー内のお湯が最後まで落ち切ってしまう前にドリッパーをサーバーから外そう。
ドリッパーに溜まっているお湯の最後のところは、炭酸ガスと雑味が多く含まれているので、最後まで落としきってしまった珈琲には独特の渋みというか、えぐ味が残りやすいのだ。

ここまで、ものの5分のとても簡単な作業なので、ぜひ読者諸兄にもトライしてもらいたい。

また、今回オススメした道具は全部合わせても約1万円程度とトライしやすいはず。
新しい生活の人も、これから生活に変化が欲しい人も、春は心機一転を図りやすい季節。ぜひ、珈琲道具を揃えて、自家製コーヒーを楽しんでほしい。

今月の一杯 【合羽橋ブリッジのエチオピア・ナチュラル】

今回道具を揃えた合羽橋「ユニオン」さんの近所にできたカフェのオリジナル豆を。焙煎自体は代々木公園の名店「リトルナップ」さんによるもの。上品な酸味とさわやかな薫りが美味。ここの焙煎は、豆の色に比べてよく焼いているような味がするからいつも不思議だ。

PROFILE
尾崎 雄飛

2001年よりセレクトショップのバイヤーとして勤務後、2007年に〈フィルメランジ ェ(FilMelange)〉を立ち上げる。2011年に独立し、フリーランスのデザイナーとして様々なブランドのデザイン、ディレクションを手がける。そして2012年1月に自身のブランド〈サンカッケー(SUN/kakke)〉をスタート。現在、様々な商品のブランディングも務めている。

珈琲屋さんの珈琲以外のもの

珈琲について聞いてみた「カフェ・ド・ランブル関口一郎さん」編


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