アメリカで発生したといわれる「サードウェーブ」という名の、珈琲屋をめぐる流行が起こって久しい。
酸味のある珈琲だ、シングルオリジンの豆だ、なんていろいろ評されるけれど、この流行がもたらした最も特徴的なことは「サーブする側のスタイル」のような気がする。
大きなコーヒーチェーン店では、揃いのユニフォームを着て、マニュアルに沿ったサーブをする必要がある。
ユニフォームを着ていれば、ひと目で店舗スタッフだとわかりやすいし、汚れた服、華美な服が客にとって目に余るというクレームへのリスク回避も図れる。
揃いのユニフォームは、業務への士気を高める側面もあるだろう。
反対に、インディペンデントで小さなお店にはユニフォームをつくる余裕も意味もない。
だから、朝着てきたそのままの服装で店に立って友だちと話すようにサーブする。
それが自然なだけなんだけど、なかなかどうして、これがかっこよく見えるわけである。
僕がアメリカで珈琲屋さんを訪れて、そういった「サーブする側のスタイル」に感心したのはサードウェーブの発生と同時期の2010年。
「スタンプタウン・コーヒー」のニューヨーク店では、古着を着て、タトゥーにピアスといったスタッフが超まじめに美味しい珈琲を淹れていた。
ロサンゼルスの「ヴェニス・グラインド」では、スケーターがキャップをはすにかぶってエスプレッソを淹れてくれたのが印象的だった。
若い人たちが珈琲に興味を持ち「どうせやるなら美味しくてクールなことを」というスタイルでお店を始めたのが、それまでの珈琲屋のイメージをくつがえした。
新しいイメージを共感できる若い感覚を持った世代がこれに飛びついたのは、これまた自然なことなのだろう。
さて、この美味しくてクールな珈琲屋さんが人気になって、資本を得て、お店を増やすとどういうことになるか。
おそらく、珈琲の売上プラスアルファが必要になるし、スタッフの統率やモチベーション向上のため、ユニフォームに変わる何かで士気を高める必要もでてくる。
そこで、彼らはクールなTシャツやグッズをつくって、みんなで着たり、それらを販売することにしたようだ。
もちろん「こんなのあったらいいよね!?」「いいね、クール!!アガるよね!!」って自然な感じで。
僕は彼らがこんな感じでつくった珈琲屋さんの珈琲以外のグッズが好きで、よい物を見つるとついつい買ってしまう。
そんな彼らの楽しさが伝わるグッズの一部を紹介したい。
このTシャツはロサンゼルスの「ハンサム・コーヒーロースターズ」の物。好きな図案を並べたって感じの、にぎやかな柄が気に入っている。
ホーローのカップとポストカードは「切り株の街」ことポートランドの「スタンプタウン・コーヒー」らしい、少しカントリークラシックなセンス。
手文字で「4」と「銃口」を表しているピンズは、サンフランシスコの「フォー・バレル・コーヒー」。ただ店名ロゴってだけじゃないのが憎らしい。
グッズづくりとなれば、日本人の得意とするところだから、日本の珈琲屋さんもまったく引けをとらない。
マグカップと缶バッジは東京・千駄ヶ谷「ビー・ア・グッドネイバー」の物。
秀逸なロゴと、かわいいイラストが目を引いた。
豆売りの店だけどグッズも豊富な「トリバコーヒー」からは、海外ブランドに名入れした物を。
アメリカの「フィールドノート」の珈琲メモと、フランス「ビック」のクリックゴールドは珈琲色で。
その逆に、海外のお店が日本でつくった物もある。
「ブルーボトルコーヒー」の手ぬぐい。
「メイド・イン・ジャパン」が大きく誇らしげに書かれているのがなんだか嬉しい。
珈琲器具のアートワークもかわいいのだ。
お気に入りのお店がつくるオリジナルグッズは、やっぱり気に入って愛着が湧くものだ。
みなさんも、珈琲屋さんの隅っこの棚にそっと、でも楽しげに置かれているグッズたちに、ぜひ目を留めてみて欲しい。
今月の一杯 【千駄ヶ谷ビー・ア・グッドネイバーのエチオピア・ナチュラル】
こちらは本文でグッズを紹介したけれど、もちろん珈琲も美味しい。鹿児島の「ヴォアラ珈琲」さんの焙煎によるエチオピア・ナチュラルは、非水洗のワイルドな味がありながら、キリッとした酸味が追いかけてくる端正な味。酸味と薫りと軽くスッキリした味わい。いい意味で典型的なサードウェーブ珈琲だと思う。