5月を彩った美しい新緑は少しずつ深みを帯びて、
いよいよ、そろそろ、梅雨の時期が始まる。
去年もこんな書き出しをしたような気がするけど、もう一年経つのか。
こんなに長きにわたって好きな珈琲の話ばかり続けていられるのは幸せなことだ。
僕は、というか皆さんもそうだと思うけれど、雨の日はなるべく室内で過ごしたい派だ。
そこで、今回は家でゆっくり映画を観たいと思う。
もちろん、珈琲にまつわる映画を、美味しい珈琲を飲みながら。
珈琲の映画といえば、やっぱり最初に思いつくのがこれ。
ジム・ジャームッシュ監督の2003年作品『コーヒー&シガレッツ』。直球だ。
モノクロの画面に珈琲の黒とダイナー・テーブルの市松模様が映える、喫茶店を巡る11編の短篇集で、豪華キャストが本人役・自然体で見せる演技が魅力。
タイトルにもなっている「コーヒー」については「美味くない」「それがいい」くらいのことにしか言及しないが、「非日常的な登場人物の日常」という命題における、日常性のメタファーとして珈琲と煙草が名脇役をつとめる。
淡々とした会話が観ていて飽きそうで、意外と飽きずに終わりまで観られる名作だ。
なかでも僕が好きなのはイギー・ポップとトム・ウェイツの掛け合いが洒脱な「カリフォルニアのどこかで」。
色の無い世界で繰り広げられるカラフルな会話が楽しい。
暇な時に観て、ああ、珈琲飲みたいなって思う作品。
珈琲を淹れて戻ってきても、たいして物語に進展は無いので安心(?)。
ケメックスで大量に淹れた薄めの珈琲を飲みながら、ボーっと観たい。
そして、もう1本は対極ともいえる映画を。
パーシー・アドロン監督の1987年作品『バグダッド・カフェ』。
タイトルにもなっている舞台の「バグダッド・カフェ」はもちろんカフェ(モーテル内の喫茶店兼バー)なのに、なんと物語は「コーヒーは無いんだ」から始まる。
モノクロ映画の『コーヒー&シガレッツ』に対して、こちらは強すぎるほど鮮やかな色彩をまとった映画で、登場人物も極彩色なキャラばかりだ。
また、ドイツ人の欧州エスプレッソ文化と、アメリカンコーヒー文化との分かり合えない様子の描写なんかが微笑ましかったりもする。
こちらも、基本的にシリアスにならず、ボケーッと観られる映画だが、全編を観終わったとき、心の中になにか柔らかいしこりが生まれていることに気づく。
明日からもっと人に優しくなれる気がするような、そんな作品だ。
西ドイツ映画ということで、ドイツ生まれのメリタ・ドリッパーで淹れた深煎りの珈琲に砂糖を少し足して、チビチビ飲みながら観るのが良さそうだ。
憂鬱な梅雨の時期こそ、ネクラな引きこもり趣味を追求するにふさわしい時期。
この機会に、観たくて溜め込んでいた映画をまとめて観ることをオススメしたい。
今月の一杯 【千駄ヶ谷ラファのジェントルマン・ブレンド】
とても近所にありながら最近初めて行った、ロンドンの自転車ブランド「ラファ」の店舗に併設ながら本格的な珈琲を出すお店。「ジェントルマン・ブレンド」は南米豆のブレンドとのこと。まったりしたコクと、さわやかな香りの抜け感のバランスが絶妙。これからの時期はアイスコーヒーにするのもオススメな、好ブレンドである。