尾崎雄飛の珈琲天国

愛す珈琲・その四「かんたんに作ろう」


Jul 29th, 2015

text_yuhi ozaki
photo_ari takagi

昨日までの雨がウソみたいに、空から雲がひとつ残らず丁寧にとり除かれて、太陽は異様に高く、ギラギラと誇らしげに輝きはじめる。
いよいよ待望の真夏だ。

僕は比較的暑さに強いようで、がんらい真夏は大好きで、積極的にその空の下に駆け出す方なのだけど、
暑いのが嫌いな人にとっては地獄の烈火に焼かれるような日々だろう。
「夏大嫌い。なるべくなら何もせず、冷房の効いた室内にこもっていたいわー」とか、
「日焼け最悪。暑いの無理!プール行きた〜い!!(けど焼けるから行かない)」とか。
こんなに暑いと、すこし動いても発汗で疲れるし、ベタベタ乾かない汗が不快で、全般的にやる気がなくなってしまうのは僕にもわかる。

だから、うだるような暑さの中で、珈琲は劣勢になってしまう。
たしかに、こんなに暑いのだから兎に角すばやく水分を摂りたいわけだ。
しかし麦茶やカルピスと比べて、珈琲は作るのにいささか時間がかかりすぎる。

ちなみに、アイス珈琲のスタンダードな作り方は連載9回「愛す珈琲・その弐」で紹介したように、なかなか手間がかかる。
この暑さにまかせて乱暴に言ってしまえば「こんな暑いのにそんな手間をかけていられない」のが正直なところ。

そこで今回は、ほんとうに暑い真夏、でも珈琲は飲みたい!
そんなときの珈琲を紹介したい。

東京の「ファッション・ディストリクト」渋谷区千駄ヶ谷の食と文化をけん引するカフェ「タスヤード」が作っている「コーヒー牛乳シロップ(¥1500+税)」。
ここの看板メニュー「コーヒー牛乳」を家庭でも味わうために市販されているものだ。
以前売っていた「PERCH MADE」の物と同コンセプトのまま一新。更に美味しくなった気がする。

作るのはとっても簡単。
氷と牛乳を入れたグラスにあとからこのシロップを注ぐだけだから、カルピスと変わらない。
9倍希釈なので、牛乳9に対してこのシロップを1だけ注ぐ。
真っ白な牛乳の底に珈琲色のグラデーションを描きつつ沈みゆくシロップの様子がきれいで、見た目にも楽しい。
小ぶりでかわいらしい瓶や今どきな洒落たラベルとは裏腹に、味は昭和レトロ。
むかしむかし、温泉や銭湯で湯上がりに飲んだ、あの珈琲牛乳のその味なのだ。
暑い日には何度もシャワーを浴びて、肌を冷やしたくなる。
ではシャワー上がりに冷たい珈琲牛乳で、身体の中もジワッと冷やしてはどうか。

銀座のコーヒー豆店「トリバコーヒー」の「ミルクコーヒーベース(¥1,300+税)」
こちらは「ミルクぎらいの子供達にと開発された」というコンセプトの、穏やかな甘みのシロップで、上記同様にミルクと混ぜるというもの。
「子供のため」と言いつつも、タスヤードが「銭湯の味」なら、こちらは「老舗喫茶店のカフェ・オレ」。甘くて苦い大人のカフェ・オレができる。
店舗2階の焙煎場(銀座のど真ん中に焙煎場)で焼かれた自慢のブレンド豆に砂糖だけで作る、ナチュラルで本格的な珈琲の味。
試しに水で作ってみたら、コレもなかなかいけるのだけど、
それなら、一緒にストレートの「リキッドアイスコーヒー」が売っているので、こちらに一票投じたい。

最後に、いつでもすぐに美味しい珈琲を!ということで「成城石井」の「コーヒーゼリー(¥280+税)」を紹介したい。
本格焙煎珈琲の自社レーベルも持っている同社が、その自慢の珈琲豆(アラビカ種100%)をぜいたくに使用して使ったコーヒーゼリーなのだ。
しかも、しっかりした深煎りの豆から作るので、ちゃんと苦くて美味。
いくつかある24時間営業の店舗でも買えるので、真夏の熱帯夜に道端で冷たい珈琲ゼリーなんてのも、いい。

というように、炎天下にたいして動かなくても美味しい珈琲は飲めるし、なまけた結果、ただの珈琲とは違うものが味わえたりする。
たまにはダラダラ怠けて過ごすのも大切だとポジティブに考えていかなければ、この真夏を乗り越えられない。かもしれない。

今月の一杯 【スマート珈琲店のオリジナルコーヒー】

京都寺町三条の老舗喫茶店が自家焙煎している珈琲。はじめに顔を出す鮮やかな酸味と、その後ろから覗く強烈な苦味が、お互いを支えるようにバランスよく円味を保って共存する。
複雑な味でありながら、ひとまとまりの味。京都という街の、そっけなさと懐の深さのバランスにも似た、病みつきになってしまうブレンド。
店頭でホットケーキやフレンチトーストとともにいただくモーニングコーヒーも、ぜひ試して欲しい。

PROFILE
尾崎 雄飛

2001年よりセレクトショップのバイヤーとして勤務後、2007年に〈フィルメランジ ェ(FilMelange)〉を立ち上げる。2011年に独立し、フリーランスのデザイナーとして様々なブランドのデザイン、ディレクションを手がける。そして2012年1月に自身のブランド〈サンカッケー(SUN/kakke)〉をスタート。現在、様々な商品のブランディングも務めている。

珈琲について聞いてみた「ベアポンド・エスプレッソ田中勝幸さん」編

愛す珈琲・その参「持ち歩こう!」


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