尾崎雄飛の珈琲天国

Vol.07 胸騒ぎの珈琲北米三都物語


Mar 19th, 2014

text_yuhi ozaki

1月の末に、すこし時間ができたので、かねてから気になっていた西海岸三都の旅に出た。

「三都」というのは今回の場合、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ポートランド、である。ロサンゼルスには仕事で何度か行っているが、他の2都市は仕事では縁が無く、旅行で行くには固い感じがして、なんとなく行けないでいた。

しかし最近、これらの街での珈琲文化の成熟度は「完熟」と言える程の物だと聞く。それは行ってみたい。更には、この連載をさせて頂いているという使命感も手伝って、珈琲テイスティング目的、胸騒ぎの三都物語が始まった。

ロサンゼルスはアメリカで一番リラックスした場所だと思う。色んな人が本やら映画やらでそう言っているから、きっとそうだと思う。
珈琲文化もやっぱり本当にリラックスしていて、スケーターやバイカーがさらっとエスプレッソを入れる。ハンド・ドリップの精度もリラックス・ムードで、楽しくカッコよくやろうぜって姿勢だ。店装や発想、物の売り方、お客さんたちのスタイルや趣味も全てがカッコよくて、味は二の次なのは勿体ないが、何につけても他の都市では味わえない体験ができるのはやっぱりロサンゼルスならではだ。物販も充実していて、「HANDSOME Coffee」のTシャツなどはデザインも秀逸だ。

サンフランシスコは、文化的に整った印象の街だった。観光するにも、ルートが整備され、食事は美味しい、ファッションも成熟していて独自性と余裕がある。

サンフランシスコには古い物が集まるとよく言われるが、本当に古着屋やアンティーク屋が充実していて、それが前述のファッションにおける独自性の遠因かもしれない。

ここの珈琲屋は新興勢力の元気がいい。サードウェーブ珈琲の源流と言える「Blue Bottle Coffee」の躍進は言わずもがなだが、出身者が始めたという「Four Barell Coffee」や、そのまた出身者が始めた「Sight Grass Coffee」「Trouble Coffee」などがしのぎを削り合っている。そんな彼らに共通して言えるのは、クリーンな店装や、パッケージのアートワーク。ヴィンテージ感の強い他の二都市のアートワークに比べ、すっきりして洗練されているのが、サンフランシスコの特徴だ。

三都目はいよいよ僕のお気に入り「STUMPTOWN COFFEE ROASTERS」の本場であるポートランド。

ここは街のなりたちが独特で、やはり独特の文化が育っている。ある人の話では、ここはかつてヒッピーの聖地であったので、マリファナは5鉢まで栽培しても合法であるとか。真偽の程はともかくとして、ヒッピー出身者が作った街であることは事実の様で、やはり珈琲文化にも自由で独特の発想がある。

「CONE」というケメックスのドリッパーにつけられる金属製のフィルターも、ここポートランドの「COAVA Coffee」の発明品である。フレンチプレスよりスッキリ、ペーパードリップよりコクのある珈琲が飲める。しかし、何と言っても「STUMPTOWN」である。ここの豆はホントに薫りがよく、焼き加減もちょうどいいので、毎日幾らでも飲みたくなるのだ。

三都市を廻って、同じ西海岸でも天候も街のなりたちも違えば、珈琲文化にも違いが出るものなのだと感心した。 われらが日本にも、ロサンゼルスのようにクールで、サンフランシスコのように洗練された、ポートランドのような工夫のある独特の味を持ち合わせた珈琲店ができたら、とてもいい珈琲店になると思う。 そこに、日本独自の文化、侘び寂びなんてモノを加えられたら、もっといい。


今月の一杯 【サイトグラス・コーヒーのコロンビア】

本文中にも登場したサンフランシスコの新店から。今回の旅で飲んだ珈琲の中で、一番美味かったのは「STUMPTOWN」。しかし買ってきた豆の中でのベストは、コクと薫り、苦味と酸味のバランスが秀逸なこの「SIGHT GRASS」のコロンビア豆だった。


PROFILE
尾崎 雄飛

2001年よりセレクトショップのバイヤーとして勤務後、2007年に〈フィルメランジ ェ(FilMelange)〉を立ち上げる。2011年に独立し、フリーランスのデザイナーとして様々なブランドのデザイン、ディレクションを手がける。そして2012年1月に自身のブランド〈サンカッケー(SUN/kakke)〉をスタート。現在、様々な商品のブランディングも務めている。

愛す珈琲・その壱

ひとりよがりのマグカップ・コレクション


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