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尾崎雄飛の珈琲天国
珈琲を飲むために、本当に必要なものは?
珈琲豆や器具に関しての知識だろうか?
絶対的かつ繊細な味覚か?
はたまた珈琲への愛情とかだろうか?
否、それは当然「容器」でなければならない。
そう。珈琲を注ぎ、あなたの口へ移すための必須アイテム。珈琲カップだ。
いやいや、なにもからかったわけではない。
たとえば、無機質でがらんとした控え室の様な部屋で、固く冷たいベンチに座り、白い紙コップで飲む珈琲と、薄暗い店内、褐色の立派な木の梁と、上部がヤニで黄変した漆喰の壁の喫茶室、低いソファシートに座り、ウェッジウッドのカップ&ソーサーで飲む珈琲が、もしも同じ物であったとしても、その違いに気がつけるだろうか。
おそらく多くの人は、同じ珈琲に違う印象を受けることだろう。
僕は常々、その逆説的な話として、
「こんな珈琲を飲むから、カップはこういうのが合う」とか、「この珈琲カップで飲むと、“いつもの珈琲”な感じがする」とかの、コーヒーの味の印象を、カップと関連づけ、珈琲の味のバリエーションを無限に膨らませることができるのではないかと考えているのだ。
だから、僕は珈琲カップをたくさん買い集める。様々な色彩の、造形の、大きさの物を。もし叶えば2脚ずつ買う。たとえば、独りで飲むのと二人で飲むのとでも、味がまた違って感じる。でも、大きめなマグカップはひとつしか買わない。うまく説明出来ないが、マグカップは独りで飲むときのものだと思っている。ハワイで買ってきた大きめマグは、ハワイ・コナ珈琲を飲む時に使う。
また、ずいぶん昔に買ったもので、表面に「Irish Coffee」と書かれたものがある。「ファイヤーキング」で有名なアンカーフッキング社の、白濁した耐熱ガラスでつくられた物だが、これが確かに、珈琲一杯分にプラス約50ccだけ、ウィスキー分の容量があるという細長いデザインで、なかなかおもしろい。
これはもちろん、夜にウィスキーを入れた珈琲を飲むと気分がいい。
このように、基本的には飲む珈琲豆の種類によって、その味の雰囲気と、珈琲カップの雰囲気を合わせるが楽しい。でも、「ヒース・セラミック」のDハンドル・マグ(バナー写真左端)なんかは、ニュートラルなデザインが気に入って愛用中だけれど、どんな珈琲を入れても、「僕のいつもの朝の珈琲」になる。ただの「容器」とは言い切れない愉しみがあるのだ。
しかし、形ある物はいつかは滅びる。珈琲カップは割れる。かわいがって愛用してきたカップたち。欠けた程度なら次の人生を与えてあげたいものである。僕は大抵、ペン立てや、歯ブラシ立てなんかにしている。うん、愛着が続く。
珈琲カップと、珈琲や、思い出とのコーディネートを楽しむことが、もっともっと珈琲を好きになるキッカケのひとつになれば、嬉しい限りである。
今月の一杯 【丸山珈琲のブレンド】
軽井沢の名店が東京西麻布に登場。さっそく購入し、オーナー丸山氏のレコメンドである「コーノ式」ドリップで実飲。深めの煎りだが薫りがしっかりしており、嫌な雑味も無い。コーノ式が引き出すさっぱり感も手伝って、誰でも飲みやすく、バランスのいい美味と言える。
PROFILE
尾崎 雄飛
2001年よりセレクトショップのバイヤーとして勤務後、2007年に〈フィルメランジ ェ(FilMelange)〉を立ち上げる。2011年に独立し、フリーランスのデザイナーとして様々なブランドのデザイン、ディレクションを手がける。そして2012年1月に自身のブランド〈サンカッケー(SUN/kakke)〉をスタート。現在、様々な商品のブランディングも務めている。
胸騒ぎの珈琲北米三都物語
ジャムる珈琲