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尾崎雄飛の珈琲天国
「珈琲下さい」
「お砂糖ミルクはご利用ですか?」
「いえ、結構です」
珈琲はブラック、ブラックは珈琲。
男たるもの、苦みを噛み締めて生きていきたい。珈琲に砂糖を入れるなど、女子供のすることっ! などとうそぶいて、日頃からダンディ気取りの僕は長年にわたり珈琲に砂糖を入れる事をしてこなかった。僕に限らず、ここ日本では「珈琲はブラック」という人は非常に多いと思う。食後に甘い珈琲を飲むのはなんだか抵抗がある、という人もまた多いだろう。ところが、海外ではちょいと事情が違うみたいだ。
仕事の都合やら何やらで、以前はイタリアへ行くことが頻繁にあった。
僕にとってイタリアといえば、エスプレッソ文化を生み出した珈琲天国でもあり、毎回、渡伊時はカフェでの休憩時間が楽しみなものだった。
エスプレッソとは、押し固めた珈琲でフタをしたボイラー内で湯を熱し、閉じ込められて高まった高圧力の水蒸気が、珈琲の旨味だけを漉し出すという特殊な抽出法による、どろりと濃く香りの立った珈琲である。これも、使う珈琲豆や圧力の高低、抽出者の腕前でも随分味が変わる、奥深いジャンルだ。
イタリアではエスプレッソに必ず砂糖を入れる。これまで見た限りでは、イタリア人は全ての人が必ず砂糖を入れていた。
なぜか。
これはある料理人の仮説だが、日本の料理は、砂糖やみりんを多用し、糖分が充分に摂取出来るため、デザートという概念も無く、珈琲にも砂糖を欲しない。
逆に欧米では、料理の味が基本的に塩味ベースなので、食後に甘いものが欲しくなる。つまり、エスプレッソは、砂糖をたくさん入れてデザートとして飲むために、あれほど苦くしているのだ、と。
なるほど、うなずける。
ならば日本人の僕らもぜひ、苦いエスプレッソには砂糖を入れて飲みたい。
しかし、ただ「砂糖」を入れることには健康面でなんとなく抵抗があるという話もよく聞くので、今回は砂糖の代わりに「ジャム」を入れることをオススメしたい。
エスプレッソにジャムを入れるという発想は、ウチのご近所、渋谷区千駄ケ谷の『 LIFE KITASANDO 』さんが教えてくれたもので、エスプレッソにする珈琲豆が持つ香りに近い香りのジャムを使用するのが、風味を散らさず美味しく飲むコツなのだとか。例えば、柑橘の香りの珈琲豆なら同じ柑橘のマーマレードを入れる、というように。
今回淹れたパナマの珈琲豆はりんごの香りを持っている豆なので、ジャムは長野県産紅玉りんごの物を用意した。
ジャムを入れ、スプーンでよくかき混ぜて、さて実飲。ゴクリ
うむ、浅煎り豆で淹れたエスプレッソの爽やかな酸味と深い苦みに、紅玉のほのかな酸味とやさしい甘味が絡んできて、口中はほろ苦くも甘酸っぱい……
……ハッ!そうか。
ダンディがよく言う「酸いも甘いも知りつくす」とは、こういうことなのだ。
苦いことばかりが人生ではない、
時には甘くて酸っぱいことも含めて……
男 が 生 き る っ て 事 さ。
年始にダンディ人生訓まで教えてくれる、すばらしき珈琲に、今年も乾杯。
今月の一杯 【ビー・ア・グッドネイバーのパナマ&ニカラグア】
こちらもご近所千駄ケ谷の珈琲スタンドの豆。鹿児島のロースターから焼きたてで直送される多種多様の珈琲豆で淹れるエスプレッソは必飲。今回紹介した以外で、ニカラグア豆にブラッドオレンジ・マーマレードという組み合わせも、香りのせめぎ合いがすばらしく美味だった。
PROFILE
尾崎 雄飛
2001年よりセレクトショップのバイヤーとして勤務後、2007年に〈フィルメランジ ェ(FilMelange)〉を立ち上げる。2011年に独立し、フリーランスのデザイナーとして様々なブランドのデザイン、ディレクションを手がける。そして2012年1月に自身のブランド〈サンカッケー(SUN/kakke)〉をスタート。現在、様々な商品のブランディングも務めている。
ひとりよがりのマグカップ・コレクション
珈琲の流行と傾向について。