尾崎雄飛の珈琲天国

Vol.04 珈琲の流行と傾向について。


Dec 25th, 2013

text_yuhi ozaki

珈琲における流行と傾向について話していたら、「なるほど珈琲にも流行があるのですか」と聞かれた。

そうか、珈琲の流行というのは、なかなか誰もが意識する様なことではないのかもしれない。しかし、そこにはひそやかな流行がちゃんとあるのだ。

僕が珈琲に興味を持つようになった1989年頃は、珈琲といえば中浅煎りの豆を、ペーパー或いは簡単な珈琲メーカーで淹れる、酸味が活躍する珈琲が主流だった(と思う)。というのも、僕の祖母が喫茶店を経営していて、祖母の妹夫婦が珈琲豆や業務用器具の卸売をしていたため、我が家にはいつも、その当時の流行を反映したであろう「ブレンド」豆や、最新の器具があった。父が淹れる珈琲は、今も当時の懐かしい酸味である。

ところが96年、シアトルから上陸した「スターバックス」の隆盛により、エスプレッソによる苦みの強い珈琲が流行の中心へと移っていった。僕はもちろん、真っ先に飛びつき、銀座の日本1号店でいち早く「ラテ」を飲んだ。エスプレッソの苦みとミルクの甘みのバランスは、当時衝撃的であった。しかし、上陸当初は行列ができる様な事はあまり無いスタバだったが、代官山などに出店を拡大し始めた頃には、オシャレでパンチのある珈琲の味に行列ができる人気となった。

そうなってしまうと、いやいや、そんなに並んでまで珈琲飲みたくないよ、と考えてしまう天の邪鬼な僕が次に行き着いたのは、所謂「サード・ウェイヴ」の珈琲。これまたシアトルからの流行で、「スペシャリティ珈琲」という、産地や状態が明瞭で品質が高い豆を使い、浅めのやさしいローストに拘って、フレンチプレス等の”浸し系”器具で油分たっぷりに淹れる、爽やかな酸味とコクが同居した珈琲である。

現在では各地に珈琲スタンドが乱立するほどの流行となったサード・ウェイヴ系珈琲の決め手は、しばらく敬遠されてきた「酸味」のインパクトを前面に出し、立ちのぼる華やかな薫りを同時に味わうという考え方や、様々なキャラクターを持つ世界各地の珈琲豆を飲み比べた時、素人にもはっきり違いが分かる、というところ。スタバに対するカウンターカルチャーとも言えるだろう。

でも実は、僕はもうこのサード・ウェイヴの波を乗り越え、既に次の流行に移行しつつある(かもしれない)。最近のお気に入りは、珈琲に甘味料を加えることである。砂糖、蜂蜜、なんとジャムまで、珈琲豆の種類や特徴によって、加える甘味を相性よく組み合わせる。これがなかなか美味いのである。酸味の強いケニア豆に黒糖、パナマ豆のエスプレッソにマーマレード等、組み合わせも無限にあり得る。これは次のトレンドになるだろうか。

こんなふうに、珈琲も流行ったり廃れたりしているのである。そして、ファッションの様に流行が繰り返したりするのだろうか。では、昔懐かしい珈琲牛乳が流行るかもしれない。或いは、新たなものとしてベトナム珈琲が突然流行??!などと、思いを巡らせるのも楽しいものである。


今月の一杯 【スタンプタウン コーヒー ロースターズ】

オレゴンはポートランド発の珈琲ロースターの豆。サード・ウェイヴ流行の寵児となった有名ロースターだけに、爽やかな酸味と豆本来の持つ旨味やコクが引き出された、分かりやすく良い味の珈琲である。東京では参宮橋「Paddlers Coffee」のみで手に入る。


PROFILE
尾崎 雄飛

2001年よりセレクトショップのバイヤーとして勤務後、2007年に〈フィルメランジ ェ(FilMelange)〉を立ち上げる。2011年に独立し、フリーランスのデザイナーとして様々なブランドのデザイン、ディレクションを手がける。そして2012年1月に自身のブランド〈サンカッケー(SUN/kakke)〉をスタート。現在、様々な商品のブランディングも務めている。

ジャムる珈琲

ニューヨークの朝は早い。


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