食べて「発見」。

「真冬のうなぎ」がとまらない。


Jan 21st, 2015

text : junichi kobayashi
photo : tamon matsuzono

日本列島は一年で最も寒い時期を迎えていますが、極寒のこの時期にならないと美味しくならない、冬ならではの味覚は多々あるもので、今回ご紹介する「うなぎ」もそのひとつ。うなぎといえば、酷暑の時期の「土用の丑」の日に食べるもの…というのが常識ですが、実は天然うなぎが最も美味しくなるのは気温が下がる秋口から真冬にかけて。というわけで、目下のところ旬まっただ中のうなぎを、今、味わうことなく春を迎えるなんて、想像できません!

SHOP INFO
うなぎ魚政
TEL:03-3695-5222
住所:東京都葛飾区東四つ木4-14-4
営業時間:11:30-14:00(LO13:00)
17:00-21:00(LO20:00)
※夜の部のお食事は入店から2時間程度
定休日:火・第一&第三水曜日
※定休日が祝祭日の時は営業(翌日休)
席数:38席
HP:http://unagi-uomasa.jp/

というわけで、目指すのは京成電鉄の「四ツ木」駅。西の方を仰ぎ見れば、凛と澄んだ真冬の空に突き刺さるスカイツリーの雄姿が目に眩しい。向かって西の方角にスカイツリーが見えるという状況に若干の違和感を感じつつ、のんびりとした空気に包まれた商店街の入り口を横目に眺めて、歩くことわずかに1分。モダンな構えの入り口に掲げられた紺地に白抜きの暖簾が、この店の目印です。

ウリは「特注活鰻」。

「特注活鰻(とくちゅうかつまん)」という自作のコピーを看板に掲げるこの店の名は「うなぎ魚政」。その謳い文句そのままに、厳選して取り寄せた活きの良いうなぎを割き始めるのは、お客からの注文を受けてから。「割き」⇒「串打ち」⇒「白焼き」⇒「蒸し」という行程を経たのちに、さらに炭火で炙るため、最低でも注文後40分は、お酒をちびちび舐めながらのワクワクタイムとなるのです。

確かに天然うなぎの旬は真冬の時期なのですが、さすがに“天然モノ”は超希少。どのくらい希少なのかというと、天然うなぎの漁獲量で日本一を誇る青森県の小川原湖でも、50本の針を付けた長さ400メートルの仕掛けで行う一度の漁で、その水揚げは良い時でもわずか2尾…というぐらい。ゆえに、資源枯渇が叫ばれる昨今は、どの店でも入荷が不安定。…なのですが、天然うなぎに極めて近い環境で育てる「坂東太郎」は、この店なら味わえる(もちろん予約は必要で、運に恵まれず入荷できない日もありますので、ご注意あれ)。というわけで、今回は「坂東太郎(上)」を注文してみました。ちなみに、うな重の価格は以下のとおりです。

● 国産うなぎ(上)4,315円
● 国産うなぎ(特上)5,380円
● 坂東太郎(上)4,830円
● 坂東太郎(特上)5,880円
● 天然うなぎ(時価)目方によって変動します

活きの良いうなぎを狙って仕入れているという事情もあり、入荷の状況次第でうなぎのサイズもまちまち。なので、時には「細いうなぎを2尾で一人前」とか「3尾で二人前」というような注文になることも。

関西風の「地焼き」も注文可!

一般的に、関東と関西とではうなぎの下ごしらえと調理の仕方が異なるのは有名な話。魚政は、うなぎを背開きにして「蒸す」という工程を挟む関東風がデフォルトですが、蒸さずにそのまま炭火で焼く関西風の「地焼き」にも対応してくれます。

厨房で蒲焼きの準備が粛々と進められ始めると、まず供されるのが、うなぎ一尾ぶんの「肝わさ」と「骨せんべい」。これから自分がいただくうなぎの骨と肝…というのだからエラいことです…。塩味が利いた骨せんべいの香ばしさと、肝の爽やかな苦味とをお供にしつつ、日本酒を舐め舐めしながら、これから味わううなぎについて、ちょっとググってみましょうか。

うなぎを食べる理由は、夏にも冬にも!

そもそも夏の「土用の丑」の日にうなぎを食べるという習慣は、江戸時代のマルチ学者である平賀源内が、旬を外した夏の時期に売上げが伸びない…と嘆くうなぎ屋に薦めたプロモーションアイデアが大当たりしたのが始まり(といわれています)。

確かに、うなぎには夏バテ予防に良いとされるビタミンが豊富に含まれているため、酷暑の時期に、滋養のあるうなぎを食べるという理屈には合点がいきます。「美味しさ」ではなく「栄養」に特化してうなぎを捉えた瞬間に、人の消費行動を大きく左右することができたという意味で、平賀源内は優秀なコミュニケーションデザイナーだったのでしょう。

うなぎといえば「浜名湖」。4月上旬から1月上旬にかけて浜名湖産の天然うなぎを扱っている、とある店によれば、「春から夏にかけてのうなぎはあっさりと柔らかく、秋から冬は身が肉厚になり脂もよく乗る」そう。夏のうなぎの側面は黄色を帯び、背中はエメラルド色。冬になると、その側面が銀色や黄金色へと変化して、背中は黒さを増すということです。

同じく天然うなぎの産地、長野県の諏訪湖のお店がいうところには、寒い時期を乗り越えようとして脂をたくさん蓄えたうなぎは、手がつやつやになるほど脂がのっていて、身もやわらかく美味しいのだそう。

夏バテ防止にも良いけれど、脂がのる冬のうなぎの味も格別。そんなわけで、夏にも冬にも、うなぎを味わうれっきとした理由がありそうです。

さて。いよいよ「坂東太郎」さんが魅惑の蒲焼きとして出世した姿で登場。箸を差し込みひと口食べれば、舌の上でハラハラと崩れていくうなぎの身の味わいが、まったく脂っぽくないじゃないですかっ!!脳内で「!」マークがぐるぐるします。坂東太郎とは、そもそも天然うなぎと限りなく似た環境で育てられたうなぎ。その身の断面を40倍の顕微鏡で覗いて見れば、養殖うなぎと異なって、脂がサシ状に入っているという点も、天然うなぎに近いそう。

ふた口めに気づくのは、口に含んだ瞬間に、少しだけ川の香りがふんわりと口の中に立ち込めること。育った環境が香りとなって食べ手へと伝わるという、素敵な状況を楽しんでいるうちに、やっぱり冬のうなぎも捨てがたいぞ、と改めて感じ入ります。…あぁ、食べたばかりなのに、また食べたい!!

コース料理を注文した場合、最初に登場するのがこの先付。中央はうなぎのレバーです。ちなみに先付の内容はほぼ日替わり。

続いて「肝わさ」と「骨せんべい」が供されます。肝はわさび醤油で、骨はそのままガリガリと。

「しらやき鰻作(うざく)」(1,295円)も、さっぱりとした味わいが実に美味。

実はこの店、日本酒の揃えがよいのも嬉しいところ。「飛露喜」「十四代」「醸し人九平次」「黒龍」などなど、メジャーだけれど入手困難な銘柄が豊富なのです。

※料理の価格は全て税込み表記です。

PROFILE
小林 淳一

編集者。東京メトロ駅構内で配布するフリーマガジン『metro min.』、食材のカルチャー誌『旬がまるごと』などの編集長を経て、主に食の分野で編集者として活躍。お酒を呑んで東北を応援するイベント「DRINK 4 TOHOKU」(http://www.drink4tohoku.com/)を開催している。

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