食べて「発見」。

銀座の裏側で口を開ける「産地への入口」


May 20th, 2015

text : junichi kobayashi
photo : taisuke suzuki

ディナーの中盤。「ドレッシングをおかけします」と、運ばれてきたサラダに煙がかけられる…。実はこれ、自家製のフレンチドレッシングをマイナス196℃の液体窒素で瞬間的に冷凍させたもの。要はドレッシングのドライアイスなので、写真のような状態になります。終始そんな感じで、手を変え品を変えて、あの手この手で、野菜の“新しい愉しみ方”を提案し続けるこの店の名は「クーリ」。フレンチの調理用語で「料理に添えられるピュレ状の野菜」という意味です。

SHOP INFO
Coulis
クーリ
TEL:03-6228-3288
住所:東京都中央区新富 2-10-10 2F
営業時間:11:30 – 14:30 (L.O) 18:00 – 22:00 (L.O)
席数:20席
HP:http://www.coulis23.com/

オーナーシェフの折笠龍馬さんが、長野県東御市の「ヴィラデストガーデンファームアンドワイナリー」のレストランから独立して、新富町に「クーリ」を開いたのは2009年のこと。スタッフ総出で産地へ赴き、収獲してきた野菜を使うなど、産地と限りなく近いレストランとして開店当初から有名です。

「ヴィラデスト〜」といえば、エッセイストで画家の玉村豊男さんが、ぶどう栽培から始めて10年がかりで立ち上げたワイナリー。ぶどう畑はもちろんのこと、野菜畑も敷地内にあるという環境での経験が長かったため、折笠さんの十八番は美味しいワインに合う野菜の料理。採れたばかりの新鮮な食材の味と香りと生命力を生かして、常に斬新なアイデアとともにプレゼンテーションしてくれます。

例えば冒頭でもご紹介した“煙のドレッシング”で味わう「15種類の野菜のサラダ」。紅芯大根やビーツ、そしてかなり甘いフルーツトマトなどの中に、静岡県産のヒラメのカルパッチョと、青森県大間産のマグロが入ります。すり鉢状の皿の底には炒った玄米が敷かれていて、食感も小気味よいし、香ばしさも加わって、実に楽しい味わいに。

ソースであってソースでない。
クーリという概念とは?

ディナーのコースはアミューズからデザートまで10〜12皿で5,500円(+税)。店名の通り、どの皿も随所でその店名を意識することになるのです。クーリ(coulis)とは、食材をピュレ状にした料理の付け合せのこと。 形状はソースですが、概念としてはあくまでも「ソース」ではなく「食材」なのです。

ガラスの椅子に鎮座するようにして供される「焼き〆鯖」。長崎産の鯖を一度〆鯖にして、表面をポワレにした料理には、ビーツを泡状にしたクーリが添えられます。もうひとつの付け合せはアマランサスの葉っぱを絡めた長野県産のワラビですが、泡へと姿を変えたビーツは、このワラビと同じ位置づけだというわけです。

あるいは、甘い玉ねぎのローストが添えられた牛のフィレ肉。レモンが香るきゅうりのクーリに、ヨモギのような甘い苦味が利く沖縄の長命草のクーリが、添えられます。

とまぁこんな具合に最大12皿。どのお皿も目の前に運ばれてきた瞬間に産地の風景が目に浮かぶような錯覚を覚えるほどに、産地と近い。そんな点でこの店は開店から7年目の今でも全く変わりませんが、ここ2〜3年、産地のほうに変化が訪れています。特に折笠シェフの古巣「ヴィラデスト〜」がある長野県の東御市では、新規就農の農家が増えたり、新たにワイナリーが立ち上がったりと、2012年頃から第一次産業がにわかにクリエイティブな状況に。

長野県産ワインの最前線が、
この店でわかります。

「ヴィラデスト〜」では、年間2万本のワインがつくられ、今や国産ワインコンクールの受賞歴を重ねていますが、その他にもこのレストランは素敵な生産者に囲まれている模様。2010年にワイナリーを完成させ、ピノ・ノワールやソーヴィニョン・ブランなどの品種を栽培して安定的にワインをリリースしている「リュードヴァン」(http://ruedevin.jp/)や、2010年に東御市に移住し、まずは有機農法での野菜の栽培を手掛けた後にぶどうの栽培へ参入し、2013年にファーストリリースに漕ぎ着けた「アパチャーファーム」など。

この店でワインを楽しんでいると、ある当たり前のことが実によくわかります。それはワインとは農産物であるということ。このグラスの中に満たされた液体を「農業」の延長として見つめることが、都市部に住む私たちにとってとても大切な時間なのかもしれません。

ホタルイカのアヒージョ サラダ添え

ワイルドな菜の花やアルファルファをかき分けると、中にはホタルイカのアヒージョ! 野菜の左下にホタルイカの足が見え隠れしています。付け合せの粉は、カカオをベースにつくられた、甘塩っぱい粉のソース。

まぐろの漬け

ほんのり醤油の香りを帯びたわらびとレフォール(西洋わさび)とで漬けたマグロ。春の花と野菜のサラダが添えられています。マグロに刺さっているのは「だいこんのサヤ」と呼ばれる、だいこんの味がする豆の一種。

セイコガニの白トリュフ仕立て

白トリュフか?と思いきや、実は卵白。60℃ほどのオリーブオイルで卵白をパール状にして、それを使ってセイコガニの身を包む…という料理。つぶつぶと口の中で解ける卵白の食感がきのこのようでもあり、なおかつトリュフのオイルの香りで「トリュフ感」は後味まで続きます。

冷静そら豆のスープ

一言で表現すればそら豆のポタージュですが、その味わいが複雑で妙味! 最初は濃い鰹のような出汁を感じますが、ネギのような香味と、ハムのような薫香、それらがそら豆と交わって、まるで炒飯のような味わいに。

※料理は全て、同店のディナーメニュー「おまかせディナーコース(5,500円+税)」の一例です。

PROFILE
小林 淳一

編集者。東京メトロ駅構内で配布するフリーマガジン『metro min.』、食材のカルチャー誌『旬がまるごと』などの編集長を経て、主に食の分野で編集者として活躍。お酒を呑んで東北を応援するイベント「DRINK 4 TOHOKU」(http://www.drink4tohoku.com/)を開催している。

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