ぐんぐんぐんぐん加速して荒涼とした大地を走る。
ジープを借りてどんどん走っているここはモロッコ。
土っぽい。
砂っぽい。
港に着いたその瞬間から異空間。物売りやタクシーや、隙あらば何らかの関わりを持とうとする人、人、人。現地の言葉のみならず、ありとあらゆる言語が飛び交う。フランス語、英語、スペイン語、中国語、そして日本語も!!コンニチハ!タクシー?ホテル?オナカ、スイタ?
押し切られそうになりながら、好奇心にちょっぴりフタをして、心を鬼にして『NO! NO! NO!! 』表情も強く、怖くしてみたりして。
まずは自分のペースで腹ごしらえ。
タジン、クスクス、ハリラ…… 何にしようか、ガイドブックとにらめっこ。他のおじさんの食べている物も、よーく観察してみる。何を目にしても美味しそう。
十分な腹ごしらえの後は街を歩く。ロバが居て、少年もお仕事中。赤い砂の建物。模様の様に見えるアラビア文字。
迷路のようなまち。メディナ。床屋が、絨毯屋が、香水屋が、肉屋が、スパイス屋が、ドライフルーツ屋が、メディナには溢れ帰っている。
お肉屋さん……こんなところでお肉を買って、お腹大丈夫かな……?皮を剥がれた羊がぶら下がっている店の軒先。
少年たちは風船で遊び、男どもは商売人のおじちゃんか、さもなければカフェでミントティー。店番のおばちゃんは肝っ玉母ちゃんという感じ。
絨毯やのおじさんが誘ってくる。
『絨毯工場の裏側を見せてあげるよ!』
『買わないから見ない!いい、いらないよ!!』
『ちがうちがう、ただ見せたいだけなんだよ。買いたければ買えるけど。』
『ゼッタイニカワナイカラネ!』
そんな押し問答の末、絨毯屋にすいこまれていく私。
絨毯屋の屋上からメディナの屋根を一望し、最後に案内されたのは勿論色とりどりの絨毯がセッティングされた絨毯屋さんのお店の中。間口からはとても想像出来ない広々とした店内。
ゼッタイに買うもんか、と決めていたのに欲しくなってしまったきれいな色の絨毯。でも旅はまだまだこれから。
本当に買う気があったらもっと交渉してたけど、今回は仕方ない。
お買い物せずにサヨウナラ。
でももしも次来たら、部屋の寸法計っていって、ゼッタイに絨毯買いたい!
さてさて、買い物の逸話は数多くあるこの国だけど、面白い話を聞いた。
『ここでは近くに居る人が一番大切な人。
だから現地の人は現地値段、隣国から来た人は現地値段よりちょっと高い、更に遠くから来た人たちはそれより更に高い。距離と値段の高さが比例してるんだ』って。
ふっかけられて腹を立てる私に説明したモロッコ人の話。それって本当かな?
値付けに顕著な不公平感が現れているのは確か。
美味しそうなお菓子の匂いに釣られて列に並んでさあ自分の番といった時に、いきなり値段が10倍になったのも一度や二度じゃない。
確かにどうみても近くから来た人には見えないね。
極東の私たちは、なんでもほぼ最高値で取引、ってこと?!
流儀を知れば知るほど、面白い。
その土地によって、考え方が違うんだ。
電車の旅のあとは、車で南下。
屋根の無い車に乗って、砂漠を走る。
目にする光景は全てが初めて。
少年達が泳いでる。なんだか透明感の無い、濁った感じの大きな水たまりの様な沼地の様なところで、泳いでる。あまりにも楽しそうなのでじっと見てしまった。
何処にいっても砂の匂い。
そして暑い。
気持ち良さそう。
どんどん南下して着いた街、アイト・ベン・ハッドウは世界遺産。モロッコ独特の赤い土で出来た要塞の村。
7世紀、先住民族のベルベル人がアラブ人の侵入から逃げる為に築いた城砦の村。とても小さい集落で、とても美しい。
どこに旅してもその場所の物語がある。そうだよね。
人々の生活を覗き見る旅。色々感じて切なくなったり、図太くなったり、彼の地のしきたりを感じたり。
旅先の夕暮れ時は特にそう。切ない気持ちがどんどんふくらんでくる。
旅の締めくくりはたっぷりのミントの入ったミントティー。
モロッコではモロッカン・ウイスキーとも呼ばれているこの飲み物。
フェズのメディナで、ラバトで出会った女の子の家で、トドラ峡谷のホテルで、おじいさんのツリーハウスの中で、アイト・ベン・ハッドウのカフェで。この旅の途中で行く先々で何度も飲んだ。
砂糖たっぷりのミントの苦みと香りが目眩を引き起こすほどの強い味。
それが立ち去る直前にはこの上も無く美味しい。
- この味はまたモロッコに来て味わいたい。
この地を離れたら、次に来るのはしばらく先かもしれない。
でもこの味とこの空気はセットになって記憶に刻み付けられてるから
心はまたいつでも飛んで来られるかな?