メトロポリタン美術館の服飾部門であるコスチュームインスティテュートが企画する「Manus x Machina: Fashion in an Age of Technology(マヌス× マシーナ:テクノロジー時代のファッション)」がこの5月から開催されています。展覧会タイトルのマヌスとはラテン語で手、マシーナとは機械のこと。キュレーターのアンドリュー・ボルトンは「もともとはハンドメイドだったオートクチュールと機械生産だったプレタポルテ。しかし最近ではその境界線がなくなってきている」と説明します。
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手刺繍や豪華なビーズワーク、また凝ったパターンやドレープなどを形容するのに「クチュール的な」という語を使うことも多いですが、これらのテクニックは今ではプレタポルテのコレクションでも登場することが少なくないのです。
また最近では3Dプリンターなど最新のデジタル技術を取り入れるデザイナーも増えています。例えばビョークの衣装などで知られるアイリス・ヴァン・ハーペンのデザイン(※1)などは、服というよりはむしろ着る彫刻といっていいほどのインパクト。一方で、昔ながらの丹念な手刺繍が施されたクリスチャン・ディオールの50年代のドレス(※2)は、まさに時代を超えた美しさがあります。
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今回、展覧会場はOMAのニューヨーク事務所を率いる建築家の重松象平さんがデザインをしています。美術館の重厚な建物内に、教会のようなシルエットの仮設建築が設置されました。半透明のPVC素材で作られた軽やかでありながらエレガントな空間には、1900年代〜現代のデザイナーまで、約170点の作品が展示されています。
アレキサンダー・マックイーンやジバンシィ、イヴ・サンローラン、フセイン・チャラヤン、プロエンザ・スクーラー、ガレス・ピューなど……、時代やデザイン、テクニックも多彩なラインナップはそれぞれに見応えがある作品ばかりです。
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例えばおなじみのシャネルスーツも時代によって進化しています。左端はココ・シャネル本人による1960年代のもの、そして右3体はカール・ラガーフェルドによる2015~2016年のオートクチュールコレクションです。右のスーツはキルティングのように見える部分が3Dプリンターで作られており、その上に手刺繍やハンドペイントなどが施されています。
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昨今のデジタル化の波は、ファッション業界においてデザインはもちろん、その販売経路やマーケティングなどにも大きな影響を及ぼしています。そもそもトレンドとは時代の流れを汲んだものなので、ファッションは常に時代の先端を行くクリエーションといっていいでしょう。
ラグジュアリーブランドの価値観には希少性もありますが、その意味では大量生産できないハンドワークの需要はデジタル時代にこそより珍重されるでしょう。最新のテクノロジーと人間によるクラフト、その両輪があってなおファッションデザインの可能性はますます豊かに広がっていくのだと思います。
Manus x Machina: Fashion in an Age of Technology (8/14まで)
The Met Fifth Avenue, Robert Lehman Wing
1000 Fifth Avenue, New York
T: 212-535-7710
http://www.metmuseum.org
※Photos
Cover & 4, © The Metropolitan Museum of Art
1, Ensemble, Iris van Herpen (Dutch, born 1984),
spring/summer 2010 haute couture; The Metropolitan Museumof Art,
Purchase, Friends of The Costume Institute Gifts, 2015
(2016.16a, b)
Courtesy of The Metropolitan Museum of Art,
Photo © Nicholas Alan Cope
2, Vilmiron” Dress, Christian Dior (French, 1905–1957),
spring/summer 1952 haute couture; The Metropolitan Museum
of Art, Gift of Mrs. Byron C. Foy, 1955 (C.I.55.76.20a–g)
Courtesy of The Metropolitan Museum of Art,
Photo © Nicholas Alan Cope
3, OMA Photography by Brett Beyer
5, OMA Photography by Albert Vecerka