最近映画といえば、ネットの配信やレンタルが便利でなかなか映画館へ足を運ぶ機会が減ってきているかもしれません。東京でも80年代後半からのミニシアター文化を支えてきた 渋谷のシネマライズが今年閉館するなど、特にインディ系映画にとっては厳しい状況となっています。
そんなご時世ながらニューヨークのローワーイーストサイドにはこの3月に「Metrograph(メトログラフ)」というミニシアターがオープンしました。インディ系の新しい映画館ができるのは、ニューヨークでは10年以上ぶりのことです。
創始者は自らも映画製作に携わるアレクサンダー・オルチ(写真中央)。彼は「THE WINDMILL MOVIE 」という作品で2008年に ニューヨーク映画祭に参加し、MoMAにもその映画が収蔵されています。ちなみに彼は自分の名前を冠した「Alexander Olch」というメンズのシャツとネクタイを主体としたブランドも手がけている多彩な人で、お店も映画館の近所にあります。
上映される作品は新作から古典まで幅広く、プログラムはもともとリンカーンセンターのフィルムソサエティで活躍したジェイコブ・ペルリン(右)と、サンダンス映画祭など多くの映画祭で活動したアリザ・マ(左)が担当しています。最近のプログラムでは選者として映画監督のスパイク・リーを招いたり、スタジオ・ジブリの作品を集めたシリーズなどがありました。
映画館内のインテリアは古き良き銀幕の時代を感じさせるクラシックな設え。入り口正面には映画を見ながらつまみたいスナック類がズラリと並んだ売店もあります。お菓子の種類も気が利いていて、オリジナルのパッケージに入ったポップコーンは「カシオ・ペペ(胡椒味のパスタ)」や「シーソルト&オリーヴオイル」風味などグルメな品揃えが特徴です。
2階にはレストラン&バー「Metrograph Commisary (メトログラフ・コミッサリー)」があります。ここは1920~40年代のハリウッド黄金期にあった撮影所の食堂をイメージして作られており、映画関係者や俳優、観客などが気軽に集う自由闊達な雰囲気を演出しているのだそうです。
メニューも本格派でタルタルステーキやビーツのスープといった前菜から、グリルした魚料理やパスタなどのメイン、食後のチーズまでがきちんと揃っています。バーエリアではオリジナルのカクテルも楽しめるので、映画の前後に一杯、というのもよいかもしれません。
レストランのとなりには映画関係の書籍やアートブックをセレクトしたブックコーナーも併設。映画を見ない日でも本をチェックしに来たり、レストランでお茶をしたりといった立ち寄り方もできそうです。
マンハッタンのローワーイーストサイドは、その昔からカルチャーの発信源として存在感を持ち続けてきました。古くは映画「ギャング・オブ・ニューヨーク」に描かれたようにニューヨーカー移民が降り立った場所でもあり、その後90年代にはグラフィティカルチャーの中心地でもありました。
ここ数年はブルックリンにヒップスターと呼ばれるような若者たちが移り住み、そのお株を奪われているようでしたが、最近ではこのエリアにもアートギャラリーが多くできたり、小さくても面白いコンセプトの店がオープンしています。そんな中、このメトログラフも映画を中心としたローワーイーストカルチャーの“ハブ(中継地点)”として新しいランドマークとなりそうです。
Metrograph
No.7 Ludlow Street, New York, NY 10002
T: 212-660-0312
https://metrograph.com/
Photos Courtesy of Metrograph