TRADITIONAL STYLE

Vol.01 テリー伊藤


Sep 12th, 2012

photo_shota matsumoto
text_jun takahashi(rhino inc,)

ファッションスタイルだけではなく、「トラディショナル=伝統」を大切にする人物にクローズアップする当企画。第1回はプロデューサー、TV番組の演出に朝の顔として活躍するテリー伊藤さん。

テリーさんとニューヨーカーの意外な接点。

僕ね、大学を卒業したときに「ニューヨーカー」に入りたいなって思っていたんですよ。当時原宿にあった「バークレイ」にはよく通っていたし、そこで働いていた店員の女の子とも付き合っていたので。

ただね、入りたいと思ったときには入社試験日がとっくに過ぎていていたんです。「しまった!」と思ったのですが、とりあえず会社まで行ってみました。社員の方に事情を話すも、もちろんダメでしたが(笑)。のんきだったなぁ。よく思い出すのは、付き合っていた子が待ち合わせに遅れてきたので理由を聞いたら、「新しいシーズンの企画会議をやってた」って言ったんです。その時は本当に羨ましくて、嫉妬しました。そんなこともあって、「バークレイ」が無くなったときは、僕の青春の1ページも無くなった、そんなちょっと寂しい気分になりました。今日、こうやってニューヨーカーから話しが来たのも、何かの因果なのかなぁって思って。

セレクトショップ バークレイ

1970年、原宿のセントラルビルに「バークレイ」がオープン。ニューヨーカー製品と国内外からセレクトしたアイテムが並んでいた。
胸に「BERKELEY」とプリントされたトレーナーが爆発的ヒットに。

最先端でいることが仕事の流儀。

ーテリーさんが仕事に対してこだわっていること・大事にしていることを教えて下さい。

テリー伊藤 仕事はもちろん、全てのことに通じるんですけど、あまりこだわらないようにしているんですよ。洋服で例えるならば、僕が中学3年生くらいから「IVY」や「トラッドスタイル」が好きで着ていたときって、周りでは誰も着ていなかったし、言わば最先端なファッションだったんですね。そこに惹かれてどんどん傾倒していったんです。ただ、あるときから雑誌でも取り上げられて流行りだしたとき、最初は少数派だったIVYスタイルが、定番となり、ある意味安全なスタイルに変わっていったんです。新しいことを常に探し、アイデアを出す演出家にとってはその「当たり前感」が時としてよくないことがある。だから一つのことに、深く固執せずに、その時々の時代の先端や流れを読んで、感じて臨機応変でいることが、強いて言えばこだわっていることかも知れませんね。

ー「トラッド」というスタイルも歴史やルールの中にありますが。

テリー伊藤 もちろん。でもね、40年前の「トラッド」と現代の「トラッド」は、ジャケット一つとっても、デザインも様々だし、作りで言えばサイズ感も全く違う。今日着ているこのジャケットだって、縫製が変わっているし、きっと昔ではあり得なかったよね。でも格好いいでしょ!? 結局、昔のことは昔のことなんです。やっぱり仕事もファッションもいつでも最先端でいないとね。あまり過去や慣例にこだわると、時代と寝ることになるんです。だから僕はいつでも時代と寝たふりをしているスタンスでいます。

ー仕事もファッションも「時代と寝たふり」をしているんですね。

テリー伊藤 そうだね。そもそもTV(地上波)ってタダで観られるでしょ? だからすごく浮気者ですよ。そんな浮気者と長いこと付き合ってきた僕ら演出家はね、本気でTVに恋していないくらいのスタンスでいなきゃね。それにTVっていつの時代も10代~20代が中心。その世代をひっぱるにはね、まず僕らが最先端を突き進んでいないとだめで、いろんな愛人と付き合わなきゃだめなんですよ。

ファッションの方程式を知っておくこと。

ーでは、ファッションスタイルの流儀はありますか?

テリー伊藤 「こだわらないこと」がまずあって、自由に楽しむことが大切だと思っています。例えば今日履いている、このサドルシューズ。昔だったらフォーマルな場ではこんな靴はありえないよね。例えば紺ブレに合わすパンツの色ってライトグレーが王道、とかさ、突き詰めていくとドンドン楽しむ幅が狭まってきて、結局若い子に「面倒くさいおっさんだな」って思われちゃうんだよね(笑)。本人の一生懸命なこだわりと反比例して。「トムブラウン」だって、常識を変えて、すごくタイトに洋服作りをしていますよね。とにかくあまり頭を硬くせずに気軽にファッションスタイルを楽しまなきゃね。

ー逆に言うと「なんでもアリ」になってしまいませんか?

テリー伊藤 一見なんでもアリに見えても、大切なのは方程式があるかどうかだと思うんだよね。音楽家で言えばクラシックという旋律のルールを知っているからこそ、ロックをより表現できたりと。トラッドのルールを一応知っておいて、そこからアレンジすることが必要なんじゃないかな。そのままでいると化石になってしまうだけだから。「ニューヨーカー」だって僕が知っている時よりも、色もカタチも素材も広がったと思うしね。

ーテリーさんのIVY以降のファッションスタイル遍歴を教えて下さい。

テリー伊藤 大好きだったIVYが日本中で流行りだしたら、僕はすぐにロンドンブーツを履きだしました。当時は南青山にある「ホソノ」(カルツェリアホソノ)しか作れる店がなかったので、シルバーのロンドンブーツを作ってね。コインローファーを履いていたのに、ある日突然シルバーのロンドンブーツを履きだしたので、周りを驚かせたよね。その後はバイカーのファッションも好きになったし、自分なりのファッションの方程式に様々なアレンジをしていって、色々なファッションをしましたね。いまでもロンドンのファッションは好きですよ。

テリー伊藤さんのお気に入り。

沢山の洋服達に囲まれたテリーさんの部屋。大好きな洋服を4つ選んでいただきました。

Gerhard Miller & Co.のシルクハット
Gerhard Miller & Co.のシルクハット
1894年に作られたシルクハット。100年以上の帽子とは思えない、しっかりとした作りです。「時代と共にやれてきている感じがパンクで好きですね。被るだけでパンクです」
プリンストン大学のスクール・ジャケット
プリンストン大学のスクール・ジャケット
目に飛び込んでくる、とても鮮やかなオレンジ色が印象的なジャケット。「この色味と大作りなサイズ感って今は中々ないので、着れば注目を集められますよ」
ヘラクレスのライダースジャケット
ヘラクレスのライダースジャケット
カウハイド(牛革)で作られた、ライダースジャケット。40年~50年代に作られた1着です。永く着込まれた、良い味が出ています。ご自宅にあるハーレーを乗るときに着られるようです。
トムブラウンのコート
トムブラウンのコート
アンティークやビンテージの洋服達の中には「トムブラウン」といった話題のブランドも並んでいました。
「こういったトラッドをベースに遊んでいるブランドが好きですね」

今年は海の男になろうと思っています。

ー最後に、テリーさんがこれから挑戦したいことはありますか?

テリー伊藤 今年はね、船舶免許を取ったんですよ。今2級を持っていて、来月には1級を取る予定なんです。こないだ中古で船を買って、いまレストア中なんですけど、休みの日には海の男になろうと思っているんです。

Vol.02 浅井愼平

Vol.44 宮藤官九郎


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