4月1日に4年ぶりの新譜「ヴァルニキュラ」日本盤が発売になったビョーク。ニューヨークではその名も「Björk」展があのMoMAで始まっています。本展覧会のキュレーター、クラウス・ビーゼンバックが15年にもわたってビョークを口説き、やっと実現したというこの展覧会。ビーゼンバックはこれまで現サンローランのクリエイティブディレクターであるエディ・スリマンが撮影した写真の展覧会や、女優ティルダ・スウィントンがガラスケースの中で眠っているという展示を企画するなど、アートの境界線についての提言を積極的に行なってきたキュレーターだといえるでしょう。
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展覧会はソロデビュー以来20年のキャリアを持つビョークの回顧展で、MoMA全館にわたって開催されています。1階にはアルバム「ビオフィリア」のために製作された楽器が展示され、これはMoMAの建築デザイン部門のコレクションとしても収蔵されています。メインの展示は「ソングライン」と題されたブースで、観客は全員ヘッドフォンを装着し、ビョークの音楽を聴きながら彼女が誕生したときからの軌跡を時系列に観覧していく、というものです。
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館内にはアレキサンダー・マックイーンや、今話題のアイリス・ヴァン・ハーペンなどが製作した衣装が展示されています。もちろん映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のアカデミー賞授賞式で彼女が来たかの有名なスワンドレス(マラヤン・ペジョスキーが製作)も! それぞれビョークそっくりのマネキンが着ている、というのも見どころです。
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ほか、ビデオアーティストのクリス・カニンガムが「オール・イズ・フル・オブ・ラブ」のために製作したロボットや、彼女の元夫である現代美術アーティストのマシュー・バーニーによるオブジェなども展示されています。ビョークはこの展覧会を開催するにあたって「まずは音楽を体験できるものにして欲しい」というのを最重要事項としてリクエストしたといわれていますが、彼女の作品はファッションやアートなど他分野のクリエイターたちとコラボレーションすることによって、それぞれの新たな才能を引き出しあいながらより輝きを増している、といえそうです。
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また今回のために製作されたという「ブラックレイク」のビデオはこの展覧会でしか見られないものです。マシュー・バーニーとの破局を期に製作された「ヴァルニキュラ」の中でもクライマックス、といえる1曲でなんと10分以上の長編です。「ヴァルニキュラ」の曲順は“破局”まで9ヶ月前、5ヶ月前……といったように時系列になっており、「ブラックレイク」はその2ヶ月後に書かれた生々しい記憶と感情の記録です。ビデオでは故郷のアイスランドで撮影され、岩だらけの荒野でうちひしがれるように歌うビョークの姿は真に迫るものがあります。
ちなみに展覧会の評判は賛否両論で、有名アート批評家の中にはこてんぱんに書いている人もいます。私は展覧会を楽しめるかどうか、はその人次第だと思います。全てのアートが全ての人に愛される必要もないと思うのです。
Björk
MoMA (Museum of Modern Art)
11 W 53rd Street, New York
Tel: 212-708-9400
10:30~17:30 (Mon~Thu, Sat, Sun), 10:30~20:00 (Fri)
*「songline」は入場制限があり、入場にあたっては時間制のチケットが必要です。予約不可で連日先着順に配布されます。
6/7まで
https://www.moma.org/visit/calendar/exhibitions/1501
Photos:
Cover,
Björk. Still from “Black Lake,” commissioned by The Museum of Modern Art, New York, and directed by Andrew Thomas Huang, 2015. Courtesy of Wellhart and One Little Indian
※1~5,
Installation view of Björk, The Museum of Modern Art, March 8–June 7, 2015. © 2015 The Museum of Modern Art. Photo: Jonathan Muzikar