9月になるといつも“あの時”の青い空を思い出します。抜けるような秋晴れの爽やかな朝でした。2001年9月11日に発生した米国同時多発テロから13年の時を経て、今年、9/11メモリアルミュージアムが開館しました。約3000人の命を奪い、またTVやネットなど同時中継的に全世界で20億人が目撃したといわれているこのテロですが、皆さんはどのようなストーリーをお持ちでしょうか?
当時、私はニューヨークに住み始めて間もない頃。その朝、私は10時にソーホーのショップに撮影のアポイントを入れており、ミッドタウンからタクシーで向かっていました。車がマディソン・スクエア・パークに差し掛かった頃、上空に煙のようなものが見え始めました。「火事?」と私が運転手に尋ねると「もっとひどいことになっている」というのです。ハウストン・ストリートまで到着したところで、それより南には車は入れないといわれ、下車せざるを得ませんでした。ウエストブロードウェイ沿いを歩き、アポのあるショップまで行く途中、ダウンタウン方面から走ってくる人々がいました。中には泣いている人も。
何がなんだかわからないまま、ショップに到着してみると今日の取材はキャンセルだから、と告げられ、私たちはそのまま編集者が泊まっていたソーホーグランドホテルに一旦引き上げることにしました。たまたま窓からは、WTC(ワールドトレードセンター)が見えるという部屋で、そこでTVを点け、緊急事態になっていることがようやく理解できたのです。
1棟になってしまったWTCからは煙がもうもうと上がっています。そして何よりシュールレアリスティックだったのは、TVの画面とホテルの窓からの眺めが全く一緒だったことです。その後、間もなく2棟目のタワーが倒壊しましたが、TVもそして窓枠に収まった“リアル”な光景も、どちらも真実とは信じ難いことでした。まるで映画かなにかを見ているような……あまりに酷すぎる光景を目の当たりにすると人間は不思議とショックを受けないものなのかもしれません。
9/11ミュージアムの前には、かつてそびえ立っていた2棟のビルの跡があります。今ではモニュメントとして水を使ったインスタレーションになり、周りは緑豊かな公園となっています。モニュメントの周りには亡くなった方の名前が刻まれ、多くの観光客が取り囲むように、カラッポになってしまったビルの跡地にある、四角いインスタレーションの中奥に流れていく水を眺めたり、写真に収めたりしていました。
一方ミュージアム内には、WTCの残骸がまるで巨大な彫刻作品のようにディスプレイされていました。こうして見ると、あのテロとは本当のことだったのか? という気さえしてきます。中でも一番印象的だったのは「Trying to Remember the Color of the Sky on That September Morning」という作品。ブルックリン在住のスペンサー・フィンチというアーティストによる、さまざまなトーンのブルーの水彩画、約3000枚を一堂に集めた作品です。“あの日”の体験はこのブルーのように人それぞれなのだろう、というメッセージが感じられるポエティックないい作品だと思いました。
今、10年以上の時を経て、このWTCは新しく生まれ変わっています。再開発も急ピッチですすめられ、傷痕は美しいモニュメントとなりました。でも、いつまでもあの日のことを忘れない、そしてあの日とはアメリカにとって、そして世界にとって何だったのか? この9/11ミュージアムとはそれを思い返すための設備なのだと私は思います。それはまるでアメリカの、巨大で美しい「墓碑」のようなものなのかもしれません。
9/11 Memorial Museum
Tel:(212)266-5211
開館時間 7:30-21:00 (9月11日はセレモニーのため開館時間が異なります)
http://www.911memorial.org/museum