美人白書

Vol.07 陣内恵理子


Mar 27th, 2013

photo_ motohiko hasui (FEMME) hair&make_moe kogure(+nine) text_chisa nishinoiri edit_rhino_inc

燕尾服にトップハット。凛とした馬上姿に、まるで中世貴族のよう気品と美しさが漂うモデルの陣内恵理子さん。そして馬場を離れると一転、はつらつと、弾けるような笑顔を見せてくれる。モデルであり、馬術を極めるアスリートであり、二男の母でもある陣内さんの、品格に包まれた美しさの秘訣を伺いました。

陣内恵理子さんの、元気と美の源

人生を変えた、馬術との出会い。

ー 20年以上のキャリアを持つ馬術では、全国大会にも出場するほどの腕前を持つ陣内恵里子さん。乗馬を始めたきっかけを教えてください。

夫(俳優の陣内孝則さん)が大河ドラマ出演のために乗馬の練習に行くというので、遊びがてら一緒について行ったのが始まりです。でも、夫以上に私の方がハマってしまって(笑)。もともと自然が大好きだったので、美しい自然の風景の中で馬に乗ることがすごく気持ちが良くて。乗馬クラブに入会して、最初は気軽なスタートだったんです。それが、確か長男の出産直後くらいだったと思います。今年、息子が24才になったので、馬との付き合いも24年になるんですね! 自分でもビックリです(笑)。

ー 趣味としての乗馬から、馬場馬術へ。馬術への挑戦は、大きな決断でしたか?

ちっとも! 馬に乗り始めた頃は、まさか自分が馬術を志すようになるなんて考えもしませんでしたし、自然な流れだったと思います。結局、同じ馬場をぐるぐる回っているだけは飽きてしまうんですよね。そうすると、次から次へいろんな術に挑戦したくなる。常歩(なみあし)から速足(はやあし)、その場で足踏みをするピアッフェ、後ろ足を軸にしたままその場で360℃回転するピルーエット……と、修得していくことが楽しくて、もっともっと新しい術を攻略したくなる。そんな風に馬術を追求しているうちに、気付いたらここまで来てしまいました。

ー 優雅なイメージとは裏腹に、馬術は非常に難しい競技だと聞きます。どのようにして馬を操るのですか?

基本的には手綱と鐙使いで馬をコントロールします。指先と足に神経を集中し、尾骨に感じる振動で馬の歩数をカウントしながら、頭は次の術のことを考えています。その間、体の軸はぶらさずに常に正しい姿勢をキープしなければなりません。一見優雅に見えますが、全身の筋肉と細かな神経を総動員させ、さらに頭もフル回転しているので、もうてんてこ舞いです。

ー にも関わらず、陣内さんを魅了する馬場馬術の魅力は何ですか?

新しいこと、難しいこと、挑戦すべき壁が次から次に現れることかな。努力とか根性とか全然好きじゃなかったのに、できないことが悔しくて、自分でも驚くほどのめり込んでいます。自分の技術の未熟さに落ち込んだり、全然言うことを聞いてくれない馬との付き合いに悩んだり、恐い先生とか(笑)、もうやめたい! って思ったことなんて、しょっちゅうです。でも、だからこそ困難を乗り越えたときの達成感は格別だし、何より、やっぱり馬に乗ることが楽しい。

人馬一体となり、優雅な動きを競う馬場馬術競技。

愛馬たちが教えてくれた、人間関係のヒント。

ー 「ホースセラピー」という乗馬療法が古代文献にも残されているように、馬は人間の心身を癒し、健やかにしてくれる存在としても知られています。陣内さんにとって愛馬どんな存在ですか?

馬術はコミュニケーションスポーツなので、競技で乗る馬はいわば志を共にするパートナーです。フィギアスケートで息の合った演技をみせるペアスケーティングのような感覚と言えば分かりやすいかな。きちんと調教された馬と組むと、自分の技術を引き上げてもらえるし、逆に自分が未熟だと、馬のレベルを下げてしまう。相乗効果で、共に高め合える相手が理想です。”馬は友だち”なんてカッコイイことを言えればいいのですが、なかなか優しいことばかりではないですね。お互いアスリートですから、プライドもあるし。すごく息が合って分かり合えることもあれば、けんかをすることもある。人間と同じですね。

今乗っている愛馬は、14才のパーシーちゃん。馬主になって5頭目の相棒ですが、歴代のパートナーのなかで一番乗りやすくて、相性も良い。見た目もかわいいんですよ。周りの友人たちに言わせると、私は新しい馬に乗るたびに、「今回の馬が一番良い!」って言ってるみたいなんですけど……。でも、馬も彼氏も、目の前の相手が最高に思えるって、良いことですよね。昔の恋愛は引きずらない主義なんで(笑)。

2011年の全日本馬場馬術大会。
馬術を披露中の陣内さんと愛馬パーシー。

ー ぜひ見習いたい主義ですね。これまで様々なパートナーと組んで来られたと思いますが、相手と良い関係を築くコツはなんですか?

褒めることと叱ることのバランスかな。上手くできたらとことん褒めてあげるし、できないときはきちんと叱る。そうやって教え、調えていきます。パートナーとは言え、あくまで手綱を握るのは人間。喧嘩しても負けたままでは言うことを聞かない子になってしまうので、こちらが優位であることを教えるためにも、喧嘩は必ず勝って終わらせるしかない。でも、私は喧嘩したら必ず褒めて、最後は仲直りしてさよならします。次に会った時、お互い笑顔ではじめたいじゃないですか。

ー まさに、恋愛関係と同じ。陣内さんに愛されるパートナーは、とても幸せですね。

そうですね。夫もそう思っていてくれると嬉しいのですが(笑)。わが家は、家族が本当に仲がいいんです。子供たちは二人とも家を出て自立していますが、今でも4人で食事をしたり、出かけたりしています。1人ひとりの人生を尊重しながら支え合える、良い関係だと思います。思い返すと、私の乗馬人生は長男が生まれた直後から始まっているので、常に子育てと共にあったんですよね。子育ての経験が馬術に活かされ、馬や夫や子供たちに教えられることもたくさんありました。私が大好きな乗馬を続けながら毎日ハツラツと過ごせるのは、そういう愛おしい存在がいつもそばにいてくれたからだと思います。

いつも健やかで美しく輝いているために。

ー スレンダーなプロポーションを維持されていますが、何か心がけていることはありますか?

良く聞かれるのですが、本当に何もしていないんです。お酒も美味しいご飯も大好きで、特に、馬に乗った後に飲むお酒は最高です(笑)。当たり前のことですが、よく食べてよく動くことが美容にも健康にも一番なんじゃないかな。今は週3回、愛馬のもとに通って練習しているのですが、それ自体がダイエットと言えるかもしれません。乗馬は服装もそうですが、体のラインをすごく意識させるスポーツ。例えば、ちょっと足がむくんだだけで、乗馬ブーツがキツくなるし、体調や心のバランスが乱れていると、馬に伝わって術も乱れてしまう。馬に乗ること自体が、自分を健やかに保つバロメーターになっているんです。

ー では、心を健やかに保つ秘訣とは?

私自身、あまりうじうじ悩まない性格なんですよね。嫌な気持ちは溜め込まない。悩んだら、体を動かす! 家の中でじっとしていると心もふさぎ込む一方。日の光をたくさん浴びて、外の空気を感じれば、クサクサしていた気持ちも自然と解きほぐれます。

例えば夫婦喧嘩した日でも、乗馬の練習にでかければ、今度は馬との間に次々に悩みや試練が襲ってくる。喧嘩のことを考えている暇なんてないくらい。そうやって目の前のことに集中していると、あれ、なんであんなに怒ってたんだろう? って、家に帰る頃にはケロッと忘れているんです。そのバランスが自分にとても合っているんだと思います。趣味でも仕事でも、夢中になれることを見つけることが、幸せへのヒントかもしれませんね。

乗り心地にこだわり、鞍はエルメスを愛用。乗馬用具や馬へのごほうびである
ニンジンを入れるバッグにもこだわりを感じます。

女性を美しくみせる、シンプルな着こなし。

ー 今回の撮影では、燕尾服をビシッと着こなし、惚れ惚れするような美しい姿を見せてくれましたが、プライベートではどんなファッションがお好きですか?

普段はパンツスタイルやカジュアルな服装が多いですね。洋服はシンプルでラインの綺麗なものが好きです。ファストファッションも好きですし、ブランドにはこだわると言うよりも自分に合ったもの、納得したものを着る。理想は、デニムに洗いざらしの白いシャツやTシャツをさらりと着こなせる女性です。

ー 究極のシンプルスタイルですね。

潔い女性ってカッコイイじゃないですか。そこに、ヒールやアクセサリーをプラスするくらいがちょうどいい。だから、靴やバック、アクセサリーは良いものを身につけるようにしています。

実は、昔から乗馬ブーツが大好きなんですよね。馬術競技のときに身につける正装って、実はシンプルで抜群にカッコイイ! 乗馬ブーツ、燕尾服にトップハット。こんな服装ができるのも馬術の魅力のひとつ。きっとファッションが気に入らなかったら、馬術もここまで続かなかったと思います(笑)。


最後に陣内 恵理子さんから
“美しくなるためのメッセージ”

外気を全身に感じて、日の光をちゃんと浴びて。よく食べ、よく働き、よく眠る。美しくあることって、そういう基本的な日々の営みを疎かにせず、1日1日を大切に生きることではないでしょうか。明るい毎日の積み重ねが、人を美しく健やかにしてくれるのだと思います。

今月の美人
陣内 恵理子

東京都出身。俳優・陣内孝則氏の妻で、2男の母。16才でモデルデビュー。雑誌やショー、CMなどで活躍。馬術をはじめて20年以上のキャリアをもち、多くの大会に出場するなどプロ並みの腕前。雑誌の取材などでも数多く紹介されている。名馬の馬主でもある。

Vol.08 山崎 直子

Vol.06 西邨マユミ


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