TRADITIONAL STYLE

Vol.05 長嶋一茂


Jan 16th, 2013

photo_shota matsumoto
text_jun takahashi(rhino inc.)

現在はタレント、スポーツキャスター、俳優として活躍している長嶋一茂さんにインタビュー。プロ野球選手引退後、武道や俳優業など、様々な世界にチャレンジする想い、洋服を着る上でのこだわりとは?

その人ならではの” 自己表現”のために生きている

ー空手や俳優、キャスターや映画の総指揮など、常に新しく様々なことにチャレンジし続ける、その原動力とはどこから来るのでしょうか。

長嶋一茂 一番強いのは自己表現ですね。インタビューをしているこの場で考えても、タレントである僕がインタビューに答え、取材して記事にしてくれている方、様々な角度から撮影しているカメラマン、僕を魅力的に仕上げてくれるメイクさんがいますよね。それぞれの仕事や役割によって、その人ならではの表現をしているんです。きっと人間ってみんな自己表現者なんですよ。

ーなるほど。表現することは人間がもつ本能でもあると。

長嶋一茂 そうそう。表現したいという気持ちが潜在意識にあって、それをどう顕在化、具現化するか、ということを、常に模索しているんです。それが人それぞれの個性にもなるので。

ー最近は無個性な若者が多い、という意見もありますが。

長嶋一茂 それは日本特有の横並び主義があったりとか、偉大な先駆者たちの強い影響もあるのかなって。また、今は飽食の時代で、インフラも整っているのも、昔と比べるとちょっと環境が違いますよね。でもね、時代は変わっても、人生を生きていく上において、本人が責任を持って幕を引くことは変わらないんです。その、人生という名の幕が開いている間に、自分が舞台の隅にいるのか、舞台の中心にいるのか、それとも立ち止まっているのかは、その人のエネルギーや魂の叫びみたいなものによって変わるんだと考えます。

ちょっと総論的な話しになりますが、人間は原始の時代から生きていくために武器を手にして狩猟をして、食料を家族や仲間に分け与えて、生活を営んできたというDNAがあるわけですよね。でも、食べて、寝て、排泄するという生理能力は変わらないはずです。

僕の場合は、小さな頃から野球を志してきました。それで30歳で幸か不幸か辞めざるを得なくなってしまいました。まあ、当時は不幸だと思いましたが。その後17年くらい経っていますが、生活するためには狩猟をしなければいけない。槍を持って奪うわけには行かないから、その手段として芸能界で自己表現をして生きているわけです。シンプルじゃないですか?

未知の世界に飛ぶ込む理由

ーそれにしても長嶋さんは様々な狩り場に行っているように感じます。あるテレビ番組で当時プロボクサーだった畑山選手に、長嶋さんが実際にボクシングをするという、体当たり的な取材をされていたのを観たことがあります。その世界に飛び込む恐怖ってないのでしょうか。

長嶋一茂 確かに芸能界に入るまでは野球一筋でした。父が監督もやっていたので、自分にとって野球がそれほど未知の世界ではありませんでした。ただ、芸能界という世界で生きていくことを考えたときに、色んなものにチャレンジをして、経験が必要なのは野球を通して知っていたんです。怖くてしょうがないし、勇気がないんだけど、好奇心とか興味があるからこそ向かっていくんです。

ーそれでも怖かったら、避けませんか?

長嶋一茂 怖いですけど、そこに行けば何かを得るということも知っているんです。それがモノでなくても、精神的なことでもいい。生きていく上での必要な食べ物も大切だけど、自らの表現に満足をして、明日から生きていこう、と思えるような活動力も両方必要なんですよ。

中学時代に憧れた紺のブレザー。

ー長嶋さんはいつもスーツを着ているイメージがあります。スーツスタイルが好きなんですか?

長嶋一茂 本当は過ごしやすくてダラダラしている服が好きです。でも、人前に出るときはお洒落したいという気持ちがあります。父がすごいスタイリッシュで、スーツ姿を色々な人に「お洒落お洒落」と言われていたのを、近くで聞いていたので。僕の中で「ユニフォームを脱いだら男はスーツ」というイメージがどこかにあって。きっとスーツの似合う男になりたいな、という願望があるんですよ。

ー具体的にスーツを着たいと思ったのはいつ頃からなんですか?

長嶋一茂 忘れもしない、中学生の時です。当時、校則で詰め襟、いわゆる学ランを着ていましたが、塾のクラスが一緒だった「大森六中」(大田区立大森第六中学校)の生徒がブレザーで、かっこいいな、女の子にモテそう、って思って。その時見たのが紺色のブレザーに紺色のネクタイだったので、今は紺系のスーツを好んで着ています。

ーその中学時代に出会った、紺のブレザーのイメージが色濃く残っているんですね。

長嶋一茂 そうですよね。今でもブレザーだったら女の子にモテただろう、と勝手に思っています。その後、大学生になったらブレザーになりましたが、その頃はどこもかしこもブレザーだったから、逆に詰め襟の方が魅力的に見えました。当時大学野球で戦ったりしていた慶応大学の学生が伝統で着ていたことを思い出します。

自分らしい着こなし、とは

ー洋服を着る上で、どんなこだわりがありますか?

長嶋一茂 まず自分を知っていないと洋服って選べないですよね。体格や雰囲気、それに性格も出ますから。その場所での自分のポジションなんかも加味して。そうやっていろいろ考えると、誰でも着られる、普通のスーツを選びたくなるんです。

ーたまにはスーツ以外の、個性的なファッションをしたいと思うことはありますか?

長嶋一茂 無いですね。例えば、奇抜なファッションってあるけれど、洋服に関しては傾(かぶ)きたくはないって思っています。派手な格好をしている人というのは、弱く見えてしまうんじゃないかなって思うので。つまり外見を派手にして自分を見て欲しいと考える人は、自分に自信が無いということを、自ら示してるように思えて。

ーこれからも未知なる新しい世界に飛び込んでいくんですか?

長嶋一茂 そうですね……。しばらく空手の道場から遠ざかっていたのですが、少し前からまた通い、稽古しています。10代、20代の子達と声張り上げて、時にスパーリングをしながら、若い子に負けずに頑張ることが、自分の中で新しい世界に向かっていることです。空手道、剣道、茶道など「道」が付くあらゆるものは、本当は死ぬまで続けることだと思います。それでも真理が見つからないような世界ですが、今は深い森の中まで続く、その道を奥地まで、彷徨ってでも進んでいきたいと考えています。

それを経て、いつになるのかわからないですが、自分の家族や孫、これからの人に、一言でも良いから、僕だけが伝えられる「何か」を残したい。そんなことを最近は考えて生きています。

Vol.06 山口晃

Vol.04 野口健


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