『生物と無生物のあいだ』などの著作で知られ、現在 ロックフェラー大学客員教授としてニューヨークに滞在されている生物学者の福岡伸一先生。福岡先生はオランダの画家フェルメールの研究家としても有名ですが、先生が監修をされたフェルメールの展覧会「Re-Create NYC2015」が今、ニューヨークで開催されています。これは日本で2012年から開催されている「フェルメール 光の王国展」の巡回展で、これまで日本では主要都市で巡回され、総勢50万人もの人々が観覧した人気の企画。海外では初めての公開となります。
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フェルメールは寡作な画家として知られ、生涯に37点の作品しか残していません。本展覧会ではその全作品をデジタルプリントで再現、特に製作された17世紀当時の色彩と質感を追求しています。またオリジナル作品と同じサイズ、キャンバス地も同じピッチで織られた布を使い、フレームもできるだけ近いもので額装している、というこだわりようです。そして何より、世界中に散らばっているフェルメール作品が一堂に会す、というファンにとってはまさに夢のような企画、といってもいいでしょう。
昨年はニューヨークのフリックコレクションで、フェルメール作品の中でも特に人気の高い「真珠の耳飾りの少女」が公開され、連日大行列が出来るほど話題となりました 。ニューヨークでもフェルメールへの関心が高いことがうかがえますが、この展覧会に際して福岡先生は「本物に身近に接し、目の肥えたニューヨーカーが、どのように評価してくださるかたいへん不安でしたが、みなさん展覧会の趣旨(=単なる複製画ではなく、全作品を時系列に見ることによってフェルメールの人生、彼が目指したもの、絵と絵のあいだにある文脈を浮かび上がらせる)をよく理解していただいたようです」。
展覧会のオープニングは大盛況で、中には実際フェルメールの作品「ヴァージナルの前に座る若い女」を個人で所有しているコレクターの姿も。ニューヨーク の投資家・慈善事業家のトム・カプランさんという方で「実際の作品を所有されているご本人がご来場してじっくり見ていただいたことは光栄であり喜びでした。カプランさんは『福岡さんのフェルメールに対する熱意とオマージュに敬意を表します』と言ってくださり、多いに励まされました」と福岡先生。
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日本には特にフェルメールのファンが多いと思いますが、その点について「絵の中に自己主張や世界解釈のようなエゴがなく、透明で清明、公平なところが、日本人の精神性と相性がよいのではないでしょうか? また初期の作品をのぞいて、宗教性がなく(隠喩を含むものもありますが)、その点もわかりやすいかもしれません。ただし、アメリカをはじめ世界中にファンがいることを考えると、世界をありのままに記述しようとしたフェルメールのフェアで奢りのない精神は世界中に受け入れられていると思います」。
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また福岡先生ご自身がフェルメールに魅了される理由については「世界をありのままに記述する、公平性をもって世界を見る、というのはそのまま科学者のマインドでもあり、フェルメールのもつ科学者的なあり方、あるいは当時のオランダの精神性というものが、私自身の科学者としての思いと重なってくるからだと思っています」。
この企画はフェルメールのふるさとオランダのデルフトにあるフェルメール・センターの協力を得て実現したそうです。展覧会は今、東京でも開催されており、こちらは過去の展示からさらに趣向を凝らして、フ ェルメールの人生を4つのステージにわけ、彼の科学者的な探求が段階的に進化していくプロセスを体験できるような展開・解説が施されているということです。
Re-Create NYC 2015 (3/24まで)
Open House Gallery, 201 Mulberry Street, New York
9:00-17:00
入場料$10(12歳以下は無料)
http://re-create-art.com/exhibitions/nyc-2015/
フェルメール 光の王国展2015 (3/10まで)
日本橋三越前 日本橋センタービル1F(中央区日本橋室町3-2-15)
Tel: 03-3510-9125
10:00~19:00 (入館は閉館の30分前まで)
入場料1000円(税込)
http://www.re-create.gallery/vermeer2015/
Photos:
Cover & 1~3 Courtesy of Vermeer Center