HELLO! FROM NEW YORK

Vol.47 ブルックリンの工場跡地に出現した砂糖のスフィンクス


Jun 18th, 2014

Edit_Akiko Ichikawa

アメリカのデリやスーパーマーケットなら置いていないところはない、黄色い箱のDOMINO SUGER。この砂糖を製造する工場がニューヨークのブルックリンにあったことは意外に知られていないかもしれません。

ウィリアムズバーグのイーストリバー沿いにある古いレンガ造りの工場は1882年に建造されたもので、砂糖工場としては当時世界最大でした。一時はアメリカで流通する砂糖の半分がこの工場で製造された、というほどの規模でしたが2004年に稼働をストップし、現在はこの工場跡地一体を住宅地にするという再開発プランが進められています。

この工場跡地で、この夏、現代美術家カラ・ウォーカーによる巨大彫刻の展覧会が開催されています。「A Subtlety」と命名されたこの作品、黒人女性がまるでスフィンクスのようなポーズで鎮座しています。19世紀のインダストリアルな空間に、白砂糖でつくられた”スフィンクス”のコントラストは圧巻です。

アフリカ系アメリカ人のウォーカーは人種差別をテーマにすることでもよく知られたアーティストですが、今回もまたメッセージの強い作品になっています。サトウキビ畑から製糖まで、そのプロセスは昔から黒人労働者の手で支えられてきました。この作品は劣悪な労働条件のもと、ずっと働き続けて来た黒人労働者たちへ捧げる、としています。

広大な工場の敷地内には、製糖用の機械がまだ残されていました。そして、あちらこちらに砂糖を煮詰めてキャンディ状にして作られた幼い子どもたちの彫刻も設置されています。子どもたちは大きな荷物を担いだり、小さな手でざるを抱えたり、彼らもまた砂糖を作るための労働者であることを示しています。その表情はキャンディがすでに融けかかっており、まるで泣いているようにも見え、また足元から融け出した液状の砂糖は、血のようにも見えてきます。

それに対して、真っ白い肌の”スフィンクス”は毅然とした表情でまっすぐ前を睨みつけているかのようです。天窓から入る自然光が、まるでスポットライトのようにグラマラスな彼女の肢体を神々しく照らしていました。

会場内の壁には100年以上にわたり作り続けられた製糖工場の染みに被われ、今もなお、彫刻の砂糖から発せられる香りと相俟って甘酸っぱい香りが充満していました。壁の染みもまた、砂糖にまつわる近代史を象徴している、といえるかもしれません。

A Subtlety by Kara Walker
Domino Suger Factory / South 1st Street at Kent Avenue, Williamsburg Brooklyn
入場料無料
週末のみ開催/ 金曜日 4~8PM 、土~日曜日 12~6PM
7月6日まで。
http://creativetime.org/projects/karawalker/


NAVIGATOR
市川暁子

フリーランスのジャーナリストとしてNYのファッションやカルチャー、ライフスタイルに関する記事を雑誌や新聞に寄稿。NYコレクションの取材は10年以上続けており、CFDA(アメリカファッション協議会)ファッション大賞のデザイナーもノミネートしている。ほか、並行してブラジルのサンパウロおよびリオのファッションウィーク取材も継続中。2007年には『NYのおみやげ』(ギャップジャパン)を、2013年にはブラジル人イラストレーター、フィリペ・ジャルジンの作品集『スケッチ&スナップ』(六燿社)を編集、出版した。www.originalslope.com

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