Vol.51 トラッドな春夏スーツ服地の知識を蓄えれば仕事も快適にこなせる。
サマースーツの定番服地となるウールトロについて、ニューヨーカーのチーフデザイナーの声と共にその特徴を予習。今シーズンのス...
HELLO! FROM NEW YORK
メトロポリタン美術館の服飾部門にてデザイナー、チャールズ・ジェームスの回顧展「Charles James: Beyond Fashion」が始まりました。
あまり日本では馴染みがないかもしれませんが、彼は1906年イギリスに生まれ、1940年にニューヨークに渡りました。第2次世界大戦前後のアメリカ社交界で、オートクチュールの豪華なドレスをデザインし、人気を博した人です。
ファッションデザイナーとしては正規の教育は受けていませんが、彼の作品は「彫刻家の視点と科学者の理論を持っている」と称されるほど、研ぎ澄まされたパターンワークが特徴でした。そのデザインの多くは細いウエストを強調するクラシックなもので、一旦は解放されたはずのコルセットを再び女性の身体に装着する、というような回顧主義でもありました。
また完璧主義だった彼は、1着のドレスを完成させるまでに膨大な時間がかかったそうです。布を大量に使うことでも有名で、最終的にはドレス自体が自立してしまうくらい重量感のあるものになってしまうことも多かったとか。実際のところ重くて着にくい、そんなドレスだったかもしれませんが、いったん女性の身体が入ってみると、まるで魔法のように理想的でグラマラスなシルエットを演出してくれる。そんなドレスなのだから、当時の女性たちは、どんなに時間がかかろうが、そしてどんなに重かろうが、そんなことはお構いなしだったようです。
展覧会では、1920〜彼が亡くなる78年までの作品65点が展示されています。特に今回はデジタルモニターや、X線機器、そして内視鏡のように小さなビデオカメラといった最新テクノロジーを使って、彼のドレスづくりの”秘密”をひも解いていく展示方法がユニークです。
ドレスの複雑なパターンを解析したり、チュールが何層にも重ねられたスカートの中をカメラが潜入したり。まさに彼の”科学者”としての理論を現代の技術によって解明していくわけです。その革新的ともいえるパターンは、その昔はクリストフ・バレンシアガも賞賛を惜しまなかったといわれ、また現代ではアメリカ大統領夫人、ミシェル・オバマが就任式で着用したドレスを作ったジェイソン・ウーも彼の影響を受けている、と話しています。
展覧会場ではイブニングドレスのほかにも、スーツやコート、また初期に彼が作っていた帽子、後期に発表された子供服なども展示されています。服のパターンの成り立ちや、製作のプロセスというのは普段はなかなか見られないもので、そういった意味でも、とても興味深い展覧会でした。
Charles James: Beyond Fashion (開催中〜8月10日まで)
The Metropolitan Museum of Art
1000 Fifth Avenue ( at 82nd Street) T: 212-535-7710
www.metmuseum.org
Photos © The Metropolitan Museum of Art
NAVIGATOR
市川暁子
フリーランスのジャーナリストとしてNYのファッションやカルチャー、ライフスタイルに関する記事を雑誌や新聞に寄稿。NYコレクションの取材は10年以上続けており、CFDA(アメリカファッション協議会)ファッション大賞のデザイナーもノミネートしている。ほか、並行してブラジルのサンパウロおよびリオのファッションウィーク取材も継続中。2007年には『NYのおみやげ』(ギャップジャパン)を、2013年にはブラジル人イラストレーター、フィリペ・ジャルジンの作品集『スケッチ&スナップ』(六燿社)を編集、出版した。www.originalslope.com
アンティーク・ガレージが20周年!
コレクター気分で「フリーズ・アートフェア」へ!